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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

豪州の工業化学品法―その1・全体概要、インベントリーおよび登録

2024年10月25日更新

はじめに

豪州の化学物質管理政策における最も基本となる法令の1つとして、工業化学品法(Industrial Chemicals Act 2019)1) が制定・施行されています。

これは工業用途の化学品の輸入または製造における管理の総括的な枠組みを定めた法令で、事業者の登録、化学物質インベントリーの整備や化学物質の危険有害性リスク評価等に関して規定しており、法規的にはEUのREACH規則(Regulation (EC) 1907/2006) 2) と類似した役割、機能を有していると言えます。

しかしそれとは異なる独自の仕組みも多いので、本稿では主にこれらの点を中心に採りあげ、今回は全体概要、工業化学品のインベントリーおよび事業者の登録について解説します。


1. 工業化学品法の概要

工業化学品法は全10部180条より成り、2019年3月公布、翌年7月施行されました。

これはそれまで豪州の工業化学品管理を担ってきた保健省(Australian Government Department of Health and Aged Care)の下部組織であった工業化学品届出・審査機構(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme:NICNAS)に対して改革が行われたことが背景にあり、本法はその一環として、それまで施行されていた旧法(Industrial Chemicals (Notification and Assessment) Act 1989)を置き替える形で制定されました。同時に管轄組織は豪州工業化学品導入機構(Australian Industrial Chemicals Introduction Scheme:AICIS)に変更され、旧法からの移行は2022年8月末を以って完了しています。

なおAICISとは、こうした工業化学品法の管轄組織と同時に、それに基づく化学品の導入に関する管理制度をも意味しています。


1.1 本法の目的等

本法の目的は、第7条に記されていますが、工業化学品の導入を規制するための国としての法的な仕組みを提供することです。ここで「導入(introduction)」とは豪州内への輸入あるいは豪州内での製造を意味します。

また(1) 工業化学品の導入に対する規制、(2) それらの使用や導入に対する評価・査定、(3) それらの使用や導入に伴うリスク管理に関する情報提供や勧告、といった施策を通じて人の健康や環境の保護への支援を行うことが挙げられています。

その他、工業化学品に関する情報・統計の収集および公表やこれらの規制に関する国際協定や取り決めに基づく豪州の義務の履行が目的として挙げられています。特に後者に関しては、第9部第158~162条において、ロッテルダム条約(有害な化学物質に関する情報を入手し難い開発途上国等へそれらが輸出されることによる健康や環境への影響拡大防止を目的とした多国間条約。1998年9月採択、2004年2月発効。)に基づく工業化学品の使用禁止や制限等に関するAICIS事務局長の執るべき必要措置について規定されています。

また第8部第139~157条では、AICIS設立の法的根拠を与え、事務局長や部門スタッフの役割や職務権限等について規定しています。

その他、規定によっては罰則が設けられているものもあります。

なお各規定に関するその技術的あるいは運用上における詳細については、工業化学品(一般)規則(Industrial Chemicals (General) Rules 2019)3) が制定施行されています。

またAICISのウエッブサイトでは主要な規定についてのガイドラインが掲載され、より具体的なレベルに則した解説がされています。4)


1.2 対象とする工業化学品

本法が対象とする工業化学品とは、第10条(1)に定義されており、(a) 化学元素、(b) 化学元素の化合物あるいは錯体、(c) UVCB、(d) 成形品より放出される化学物質、(e) 天然に存在する化学物質、および(f) その他の化学物質でその目的のための規則の定めによるものですが、いずれも工業用途に供されることを条件としています。

一方、第11条(2)では工業化学品の導入から除外するものとして、(a) 天然に存在する化学物質、(b) 単離されていない中間体、(c)偶発的に導入された化学物質、(d) 成形品中に含まれる工業化学品でそれから放出されることを意図していないもの、および(e) その目的のための規則の定めによる化学品、としています。

ここで天然に存在する化学物質の扱いですが、第11条(2)の(a)については、以下の様なものが該当します:

① 自然環境で存在している未処理のもの

② ①から手動的・機械的または重力的手段、水への溶解、浮選、脱水のための加熱等の化学変化を利用しない手段により抽出されたもの

③ 複数の①を混合し、その過程で化学変化が生じないもの


これに対し、天然に存在した状態のものを溶媒抽出、蒸留等の化学的手段で抽出したものは第10条(1)の(e)に該当し、本法の対象とする工業化学品となります。

その他第11条では、豪州の港や空港に入荷した状態のものや個人の私的使用のみを目的とするもの等は本法における導入の対象外としています。


2. 豪州工業化学品インベントリー

豪州工業化学品インベントリー(Australian Inventory of Industrial Chemicals:AIIC)は豪州の既存化学物質の目録であり、第80条によりAICIS事務局長はこれを作成、保持せねばならないと規定されています。5)

現在約40,000件の化学物質が収載され、その掲載項目は第81条に規定されていますが、CAS名、CAS RN、分子式等の各物質の特定情報の他、物質によっては以下の様な項目があり、これらは企業が化学品の導入を実施する際に把握しておくべき重要な内容となります:

① 導入や使用に関する条件(許容される量、場所、およびその目的のための規則の定めによるもの)

② 導入時にAICIS事務局長への提出が要求される情報

③ その他の工業化学品に関する情報で、その目的のため規則の定めによるもの

なお一部の化学品には営業秘密上、非公開としているものがあります。

ただし使用禁止あるいは制限されている工業化学品は、各州或いは準州の法令に拠るため本インベントリーには反映されず、それらは別途検索して確認する必要があります。


3. 導入者の登録

豪州で工業化学品を輸入または製造する者(導入者)は導入前にその登録年度の工業化学品導入者登録簿に登録せねばなりません。(第13条)ここで登録年度とは、毎年9月1日より翌年8月31日までであり、年度毎の登録が必要で、年度を跨いだ登録が必要な場合には、その年の8月31日までに更新が必要です。

登録には豪州ビジネス番号(Australian Business Number:ABN)が必要ですが、豪州以外の企業の場合は豪州登録機関番号(Australian Registerd Body Number:ARBN)を取得すれば可能です。この点がEUのREACH規則での唯一代理人による方法とは異なり、またEUでの年間1トン以上の化学物質といった要件はありません。

登録時には前会計年度(7月1日~6月30日)に輸入又は製造された工業化学品の金額を入力せねばならず、この金額に応じて登録料を納付します。

導入に際し、まず対象となる工業化学品の前記AIICへの収載状況を確認し、そのタイプに基づいたカテゴリーに分類し、各々に応じた対応が必要です。(詳細は後述)

そして全ての登録した導入者は、登録年度に輸入または製造した全ての工業化学品に関する年次宣言書をその年の11月30日までに提出します。これはその年度の全ての導入が上記各カテゴリーの要件通りに行われたことを宣言するものです。(以下その2へ続く)


参考URL

2) consolidated text


(福井 徹)

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