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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

中国の化学品危険有害性分類・表示に関する法令および国家標準類について

2024年09月13日更新


はじめに 

危険有害性を有する化学品の分類・表示の基準は化学物質管理政策において最も基本的な要素ですが、世界の多くの国々では国連勧告の形で公表されているGHS(Globally Harmonized System)に整合する形で各々法的整備を進めています。

中国ではこれを関連法令と国家標準による規定類によっていますが、2024年7月24日に強制標準GB 30000.1-2024が明年8月1日より適用されることが公表されました。1) これは同年3月に案が公表され、意見募集を行っていたものです。2)

本稿ではその概要について関連法令やこれまでの経緯も含めて解説します。


1. 中国における危険有害性化学品に対する法規制

中国では化学物質管理の包括的法令としては、EU・REACH規則に類似の新規化学物質環境管理登記弁法(生態環境部令第12号)3) がありますが、危険有害性を有する化学品に対する法的規制については、2011年12月にそれまでの国務院令第344号から改正施行された危険化学品安全管理条例(国務院令第591号)4) を基礎としています。

ここでは第3条において危険化学品を「毒性の強い化学品、およびその他の化学品で毒性、腐食性、爆発性、燃焼性、助燃性等の性質を有し、人体、施設、環境に有害なもの」と定義しています。


この定義に該当する具体的に規制対象となる物質は、「危険化学品目録」としてリスト化されて公表されており、2022年調整版では2,828物質を収載しています。 5)

そして第15条において、危険化学品の製造業者に対し、国家標準に適合したSDSの提供とラベル表示の実施、そしてそれらの内容に変更があれば速やかに更新することを義務付けています。

また危険化学品の製造者および輸入者にはその化学品の分類や表示、物理的および科学的特性、危険有害性、目的、安全対策等の所定の情報を登録すること、また既に登録した化学品に新たな危険有害性が見出された場合には速やかに登録内容変更手続きを行うことを要求しています。但し危険化学品の貯蔵や使用する者に対してはそうした要求はしていません。(第67条)

登録の具体的な要領については、危険化学品登記管理弁法(国家安全生産監督管理総局令第53号、2012年8月施行) 6) に定められています。

なお危険化学品の法規制については、2020年10月に「危険化学品安全法」案が公表され、意見募集が行われました。7) これは「法律」として、これまで施行されてきた危険安全管理条例よりも上位に位置付けられる法規ですが、2024年9月現在では未だそれ以上の動きは確認されていません。


2. 化学品の危険有害性分類・表示に関する国家標準とGB 30000シリーズ

中国でもGHSに準拠した仕組み構築のため2003年のその初版公表後、危険有害性分類・表示の強制国家標準の整備が進められました。

これらは単一の標準ではなく、分類や表示に関する一般的事項を定めたものと各危険有害性クラス別にその詳細を定めたものとの複数の標準より構成されていることが特徴です。


中国として最初のGHS分類は、2006年に公布されたGB 20576-2006~GB20602-2006(ただしGB 20600-2006は除外)で、GHS初版と同様の計26クラスを設定し、それらの分類および表示の基準を規定していました。

その後もGHSは2年毎の改訂が進む一方で、中国では前記の様に危険化学品管理条例の改正施行が完了しましたので、2012年よりこれら標準類の同条例の下位規定としての整備に向けた動きが開始され、2013年以降GB 30000シリーズとしての標準への切替が進められました。


まず2013年、GB 30000.2-2013~GB 30000.29-2013が公表され、2014年10月に発効し、上記旧標準を置き替えました。これはGHS第4版(2011年公表)に整合し、誤えん有害性およびオゾン層への有害性の2クラスを追加した計28クラスをカバーしています。


一方、一般的規定を定めるGB 30000.1-1はその後も長らく公表には至らず、このため従来からの「GB 13690-2009:化学品分類および危険性公示通則」(上記旧標準GB 20576-2006~GB 20602-2006に対応する内容)8) が存続してきました。

今回公表されたGB 30000.1-2024は、名称も「化学品分類とラベル規範 第1部:通則」と改められ、内容はGHS改訂第8版(2019年公表)に整合させています。

本標準は以下の様な6章1付録より構成されています:

(1)適用範囲

(2)規範とする参考文書

(3)用語及び定義

(4)危険有害性の分類

(5)ラベル表示

(6)SDS

付録A GHSで指定されている定義および略語


危険有害性の分類に関しては、GHS改訂第8版に整合させることから鈍性化爆発物を加えた計29クラスとなりました。

また規範とする参考文書においては、国連危険物輸送勧告(United Nations Recommendation on the Transportation of Dangerous Goods:UNRTDG)改訂第20版(2017年公表)が挙げられています。

なおラベル表示の具体的詳細は強制標準「GB 15258-2009:化学品安全表示規則」が施行中で、必要記載項目はGHSと同様の計6項目としています。9)

SDSについては、推奨標準「GB/T 16483-2008:化学品安全技術説明書の内容と項目順序」があり、必要記載項目はGHSと同様の計16項目です。10)

また具体的なSDSの記載要領の解説として推奨標準「GB/T 17519-2013:化学品安全技術説明書作成マニュアル」があります。11)


おわりに

中国における化学品の危険有害性分類・表示に関する国家標準類は、今回のGB 30000.1-2024の公表でGHS改訂第8版への整合化という大きな方針が明示されました。

一方、これに伴い新たに設定されたクラスである鈍性化爆発物についての具体的な分類基準は未公開で、今後これはGB 30000.30として実現されるものと思われます。

また既存の28クラスに関するGB 30000.2-2013~GB 30000.29-2013はGHS改訂第4版準拠のものですので、これらについても改訂第8版への整合を図るべく必要な内容の見直しが行われるものと考えられます。

前記の様にGB 30000.1-2024の適用開始は明年8月1日であり、これに合わせた動きも予想されますので、引き続き注目していきたいところです。

以上


参考URL


(福井 徹)

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