2025年01月17日更新
EU玩具安全指令(2009/48/EC)(*1)は、2009年6月18日に玩具の安全性について規定した「玩具の安全性に関する加盟国の法律の近似に関する指令(88/378/EEC)(*2)」を置き換えるものとして公布されました。
玩具市場における技術開発にともない新たに発生した問題や消費者の懸念に対し、玩具が販売される枠組みについて明確化するために玩具の安全性に関する加盟国の法律の近似に関する指令(88/378/EEC)を改定および強化するものとして施行されています。
1.制定背景
EUにおける玩具に関する規制については、それまでの「玩具の安全性に関する加盟国の法律の近似に関する指令(88/378/EEC)」が技術的調和と基準への新たなアプローチに基づき物理的および機械的特性、可燃性、化学的特性、電気的特性などの玩具に関する基本的な安全要件を定め運用することで機能していました。しかしながら、玩具が2001年に公布された「一般製品安全に関する指令(2001/95/EC):GPSD(*3)」の対象となったことや「製品のマーケティングに関連する認定および市場監視の要件を定めた規則(2008/EC/765)(*4)」が適用されることなどにともない、玩具特有の解決策を必要としない場合についてこれらの規定と整合させる必要性がでてきました。また、ビデオゲームや周辺機器など技術の進展により発生した特定の新製品に関して玩具セクターに固有の特定の新しい定義を提供することが適切とされたことも改定の理由とされています。
このような背景から、EU玩具安全指令(2009/48/EC)は制定され、附属書Iにより玩具の範囲の明確化などがされています。なお、現在はオンライン販売の進展やエコデザイン規則((EU) 2024/1781:ESPR(*5))の施行に対応するために、指令を規則に変更する玩具規則案が検討されています。
2.規制の目的
EU玩具安全指令(2009/48/EC)は、一般市場の消費者、特に子供に対して、問題となる製品から生じる危険から効果的な保護を行い、EU域内で安全な製品のみが販売されることを目的としています。また、EU域内における玩具のマーケティングおよび自由な移動を達成するために、各加盟国で異なる法律や規制、行政規定を是正し、貿易の障壁をなくし、平等な競争条件を確立することも目的としています。そのために、EU玩具安全指令(2009/48/EC)では、玩具の設計及び構成に関する欧州レベルでの調和のとれた基準などの技術要件や適合性評価機関の認定、CEマーキング、市場監視に関する事項、含有化学物質のリスクを踏まえた安全要件などを規定しています。法規制の内容は以下に示す9チャプター57条と5つの附属書から構成されています。
チャプターI:一般条項
チャプターII:経済事業者の義務
チャプターIII:玩具の適合性
チャプターIV:適合性評価
チャプターV:適合性評価機関の届出
チャプターVI:加盟国の義務と権限
チャプターVII:委員会の手続き
チャプターVIII:特定の管理規定
チャプター:IX:最終規定および経過規定
附属書Ⅰ:玩具とはみなされない製品のリスト
附属書Ⅱ:特定の安全要件
附属書Ⅲ:EC適合宣言書
附属書Ⅳ:技術文書
附属書Ⅴ:警告
3.製造者の義務
EU玩具安全指令(2009/48/EC)ではチャプターIIの経済事業者の義務の第4条に製造者の義務に関する内容があり、以下の規定があります。
(1)規定された安全要件に従って設計および製造されていることを確認する。
(2)技術文書を作成し適合性評価を行い、EC適合宣言書を作成してCEマーキングを行う。
(3)玩具が市場に投入されてから10年間、技術文書とEC適合宣言書を保管する。
(4)連続生産の場合、適合を担保する手順が実施されていることを確認する。
(5)型番、バッチ番号、シリアル番号、型番、または識別を可能にするその他の要素が記載されている。
(6)製造業者の名前、登録商号または登録商標、および連絡可能な住所、またはそれが不可能な場合は、そのパッケージまたは玩具に付属の文書に記載する。
(7)消費者が容易に理解できる言語で書かれた指示および安全情報が添付されていることを確認する。
(8)市場に出した玩具が関連する欧州調和法に適合しないことが判明した場合、適合させるために必要な是正措置を講じ、該当の玩具を撤回または回収する。
(9)当局からの要請に対応して玩具の適合性を実証するために必要なすべての情報および文書を、当局が容易に理解できる言語で提供する。
(1)の安全要件については、第10条の一般安全要求事項および附属書IIの必須安全要求事項に従うことが求められています。附属書Ⅱは、「物理的および機械的特性」「可燃性」「化学的特性」「電気的特性」「衛生」「放射能」の6つの事項を要求しており、整合規格としてEN71シリーズが制定されています。化学物質については、CMR物質(発がん性、変異原性、生殖毒性の物質)の使用が原則禁止となります。また、その他にアレルギー性香料の使用制限や重金属の移行制限に関する規定があります。対象物質とその内容は附属書II「III:化学的特性」の項で確認することができます。
4. 派生的規制法
玩具は消費者製品の一部を構成するセクターであるため、EU玩具安全指令に規定がない場合、GPSDを規則に置き換え施行された「一般製品安全規則:GPSR(*6)」が補完的に適用されます。また、安全要件は技術的進歩を考慮して更新するものとし、「REACH規則(*7)」や「食品に接触する材料および製品に関する規則((EC)2004/1935)(*8)」に準拠することも求められています。したがって、これらの規制動向にも留意しておく必要があります。
さらに、近年、オンライン販売の進展やエコデザイン規則((EU) 2024/1781:ESPR)におけるデジタル製品パスポート(DPP)の導入にともない、「EU玩具安全指令」から加盟国を一律に規制する「EU玩具安全規則」への置き換えが検討されています(*9)。主な変更点としては、これまでのCMR物質に加えて内分泌かく乱物質、呼吸器感作物質、および特定の臓器に有毒な物質の追加が検討されています。また、CEマーキングを継続しつつ、適合宣言書を不要とする代わりにデジタル製品パスポートで対応することも盛り込まれています。
この玩具規則案は、欧州理事会や欧州議会で検討を進めている段階であり、(*10)、正式版がどのようになるかその動向が注目されているところです。
(長野 知広)
(*1) 玩具安全指令2009/48/EC
(*2)玩具の安全性に関する加盟国の法律の近似に関する指令(88/378/EEC)
(*3)指令 2001/95/EC 一般製品安全指令(GPSD)
(*4) 製品のマーケティングに関連する認定および市場監視の要件を定めた規則
(*5) EU官報 ESPR
(*6)規則(EU)2023/988(GPSR):一般的な製品の安全性について
(*7) REACH規則((EC) No 1907/2006)改正反映版
(*8) 規則 (EC) No 1935/2004 食品への接触を意図した材料および製品の規則
(*9) 玩具の安全性に関する欧州議会および理事会の規則および指令2009/48/ECの廃止に関する提案
(*10) 玩具の安全性:EU理事会が玩具安全指令の更新に関する見解を採択
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