2023年06月09日更新
欧州委員会はRoHS指令(2011/65/EU)の修正する欧州委員会委任指令(C/2023/3138)(以降:本委任指令)を官報掲載しました1)。以降、その主な内容を説明します。
1.修正案の経緯
RoHS指令附属書IV には「医療装置および監視制御機器に特定したRoHS指令第4条(1)の制限からの除外用途」が掲載されています。 従来から免責事項41として「血液などの体液や体内ガスを分析する体外診断用医療機器に使用されるアンペロメトリック、ポテンシオメトリック、コンダクノメトリック電気化学センサーの基材として用いられるポリ塩化ビニル(以降:PVC)の熱安定剤としての鉛」が掲載されており、その有効期限は2022年3月31日となっていました。この除外措置について、有効期限の1年半前(2020年9月30日まで)に更新申請が行われなかったため、失効となっていました。
2021年12月1日に欧州委員会は、附属書IVに追加される新規項目の申請を受理しました。 その内容は、「全血中のクレアチニンおよび血中尿素窒素(BUN)を分析するための体外診断用医療機器に使用されるアンペロメトリック、ポテンシオメトリックおよびコンダクノメトリック電気化学センサーに基材として用いられるPVCの熱安定剤として鉛」(前記、免責事項41とは少し異なる用途であることに注意)に関するものでした。 その後、2022年3月に欧州委員会は、必要な技術的・科学的評価を実施するための調査をPack26として開始しました。 このPack26はOeko-Institut e.V.社により、2022年4月7日から6週間の一般ステークホルダーコンサルテーションの実施を含めて進められて、2022年9月19日に最終報告書が提出されました2)。
その後、2022年10月26日に欧州委員会は、RoHS指令に基づく委任法のための加盟国専門家グループに諮問するとともに、RoHS指令第5条(3)から第5条(7)に基づく物質の制限の適用除外に関する必要な手続き上の手順をすべて実施しました。
本委任指令の草案は、2023年1月16日から2023年2月13日までの4週間、一般からの意見聴取がされましたが、投稿はなく、法律案はそのまま採用されました。
2.修正案の内容
除外用途の申請者は診断用医療分析装置を製造しています。 この装置は、Point of Care (PoC)、つまり患者を診断する時や医療診断検査時に使用され、患者の血液を分析し、その結果を提供することで、急性疾患患者の迅速なリスク層別化と優先順位付けが可能です。 さらに、この装置にクレアチニンと血液尿素窒素の測定値を追加することで、腎臓透析や代謝性疾患の診断、モニタリング、治療を支援することができます。
鉛は、測定カートリッジの基材であるPVCに熱安定剤として使用されています。 この測定カートリッジは、診断用医療分析装置に使用される使い捨てカートリッジであり、1回の全血サンプルで特定の分析物(例えば、ナトリウム、塩化物、グルコース、pH値など)を正確に測定することができます。 以前の免責事項41は、このような用途を対象としていました。このような用途における鉛の代替は進んでおり、同様の機器を製造している他のメーカは、すでにセンサーの鉛を代替しています。 しかし、クレアチニンと血中尿素窒素を分析する測定カートリッジについては、そのような測定カートリッジを置き換えるほど開発が進んでいませんでした。 鉛を含まない測定カートリッジは申請者が開発中ですが、鉛代替の信頼性が十分でない、あるいは精度が低すぎるため、まだ市場には出回っていません。 その背景として、装置のメーカはコロナ感染症における病院のニーズの変化、すなわちコロナ感染症の入院患者の管理における血液ガス分析に使用する分析装置と測定カートリッジの需要の増加により、RoHS準拠材料の開発に遅れが生じたとしています。
今回の申請は、この装置で使用する使い捨ての測定カートリッジを対象としています。 すでに市場に出ている機器が、その代替機器が開発されるまで、引き続き使用できるようにするため、使い捨ての測定カートリッジに対し、除外用途の申請がされたものです。
クレアチニンと血液尿素窒素の2つのパラメータに関連する測定カートリッジの鉛の代替品の開発と検証は、2023年末までに完了することが期待されています。 鉛を含む測定カートリッジを交換できない限り、そのような機器は機能しなくなる可能性があるため、除外用途申請を却下することは、すでに市場に出ている機器を使用している医療サービス業者に大きな影響を与えることが予想されます。
鉛及びその化合物は、REACH規則の附属書 XVIIの項目63でも制限されています。 この項目は現在検討中であり、将来的にはPVCのポリマー又はコポリマーから製造される成形品に対する鉛の制限を含む予定です。PVC中の鉛の可能な制限は、2023年より後に発効する予定です。 RoHSの適用除外は、2023年末に予定されている特定のセンサーカードにおける鉛の代替を終えるまで必要となります。 2023年末までの有効期限であれば、指令2011/65/EUの第5条に基づき、REACH規則による環境および健康の保護が弱まることはありません。
除外用途の有効期間に関しては、上記のPVC中の鉛に対する将来のREACH規則による規制を考慮する必要があります。 規制の移行期間として平均的な18ヶ月を考慮し、規制が2022年12月に採択されると仮定すると、PVC中の鉛は約2024年6月までに規制されることになります。 申請者が提示した計画的なスケジュールを考慮すると、2023年末には代替が予想されます。 したがって、適用除外が認められた場合、2023年12月31日を有効期限とすることとされました。
3.修正箇所
RoHS指令附属書IVに免責事項41aとして以下が追加されます。
「全血中のクレアチニン及び血中尿素窒素の分析のための体外診断医療機器に使用されるアンペロメトリック、ポテンショメトリック及びコンダクノメトリック電気化学センサーの基材として用いられるPVC中の熱安定剤としての鉛。これはカテゴリー8(医療用機器)に適用され、有効期限は2023年12月31日まで」
4.今後の動き
本指令の官報掲載は2023年5月16日であり、その翌日から20日目である6月6日に発効となります。EU加盟国は本指令の発効日から5ヶ月目の最終日、つまり11月30日までに、必要な国内法を採択して公表することになり、その翌日、つまり12月1日までに適用となります。
(中山 政明)
引用
1) RoHS指令附属書IVを修正する欧州委員会委任指令
2)Pack26最終報告書
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