2023年01月13日更新
欧州委員会は、特殊な用途で使用されるキャピラリーレオメータ用溶融圧力変換器に使用する水銀に関して、RoHS指令の附属書Ⅳの修正案を公表しました1)。 ただし、この修正案は、最終的な見解を示すものではないとしています。
以降、主な内容を中心に説明します。
1.修正案の経緯
キャピラリーレオメータは、せん断粘度及びその他の流動特性を測定する装置です。 溶融したポリマーの粘度などを分析し、押出工程などでの挙動を予測することができます。 例えばプラスチックの流れ特性の試験方法はJIS K 7199に規定されています。 今回の修正案は、監視・制御機器として温度300℃超、圧力1000 bar超という、過酷な条件下で使用されるキャピラリーレオメータ用溶融圧力変換器に使用する水銀に関しての適用除外です。
欧州委員会は2021年10月に評価を開始し、10週間(2021年11月30日~2022年2月 8日)のステークホルダーコンサルテーションを実施3)した後、2022年8月に終了しました。
コンサルテーションに関する情報はWebサイトで提供され、2つのステークホルダーからの意見がありました4)。
例えば、その内の一社の意見の概要は以降の通りです。
「キャピラリーレオメータで流動特性を測定する原理として、液体の圧力を電気信号に変換する溶融圧力変換器が不可欠な部品である。その企業が販売している溶融圧力変換器は、440℃、2000 barまでの範囲をカバーする必要があり、この動作範囲では、溶融圧力変換器内の充填材として、水銀に代わる市販の物質は無い」。
ステークホルダーコンサルテーションの意見を踏まえ、欧州委員会は、2022年10月26日にRoHS指令に基づく委任行為に関する加盟国専門家グループに対して諮問を行いました。
その技術評価の結果は以降の通りです。
「キャピラリーレオメータの圧力変換器の充填物として水銀を使用し、測定端子の圧力を高温高圧領域外のセンサに伝達している。使用されている圧力変換器は電気部品で構成されているため、RoHS指令の適用範囲にある電気測定器となる。意見のあったキャピラリーレオメータは、RoHS指令の第2条(4)が適用される大型機器に該当しない。低圧領域では水銀は他の物質で代用することができる。しかし、300℃以上、1000bar以上という要求された動作範囲での代替は、現時点では科学的にも技術的にも不可能である。」
その後、欧州委員会は、RoHS指令第5条(3)から第5条(7)に基づいて、適用除外に関する必要な全ての手続きを実施しして、今回の修正案を公開しました。
2.修正案の内容
キャピラリーレオメータは、カテゴリー9「監視及び制御機器」に該当するため、除外の範囲はそれらに限定されるべきであるとされ、附属書Ⅳ(医療機器および監視および制御機器に特化した第4(1)条の制限から除外される用途)に49項目として追加することが提案されました。
[修正案]
RoHS指令(2011/65/EU)の附属書IVにおいて、以下の項目49を追加する。
No.49 300℃以上、1000bar以上のキャピラリーレオメータ用水銀封入型圧力センサ
ただし、カテゴリー9に適用され、有効期限は2024年12月31日とする。
なお、この指令はEUの官報に公示された日の翌日から20日目に発効する。EU加盟各国はこの指令に準拠するために必要な法律、規則、行政規定を採択し、公表すること。
3.修正案の今後の予定
意見募集期間は、2022年12月12日から2023年1月9日とされています。 URLからログインし、意見を述べることができます2)。 寄せられた意見は、本案の最終決定に際して考慮されます。 また、寄せられた意見は本サイトで公開されることになっています。
その後、欧州委員会の採択は2023年第1四半期を予定しています。
4.水銀に関する今後の動向
水銀に関する水俣条約の第4回締約国会議において、EUは特定の水銀添加製品の段階的廃止時期を提案5)し、この提案に基づいて水銀条約附属書A第I部を修正することを決定しました6) 。 この決定に伴い、溶融圧力変換器、溶融圧力センサなどの計測器は、大型機器に搭載されるものや高精度計測に使用されるもので、水銀を含まない適切な代替品がないものを除き、2025年末までに段階的に廃止される予定です。 そのため、今回のキャピラリーレオメータ用溶融圧力変換器の300℃超、1000bar超での水銀使用(カテゴリー9)は、大型機器でも高精度測定でも例外に該当しないと考えられています。
なお、水銀に関する水俣条約に基づく制限は、規則(EU)2017/852 に移行される予定です7)。 それに伴い、現行の除外は2024年12月31日までと有効期限が提案されています。その後のWTO TBTの通知文では提案から変更され2025年12月31日までとなっています。したがって、その動向に応じてRoHS指令も改正されるべきとされており、今後の動向に注意が必要です。
(中山 政明)
引用
1) RoHS指令の付属書Ⅳの修正案
2)本修正案の流れ
3) ステークホルダーコンサルテーション
4) ステークホルダーコンサルテーションで寄せられた意見
5) 特定の水銀添加製品の段階的廃止時期の提案
6) 水銀条約付属書Aの第I部の修正
7) 規則(EU)2017/852
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