2022年10月08日更新
はじめに
現在欧州委員会(European Commission:EC)によって「携帯電話及びタブレット端末を持続可能なエコデザインとするための設計」(Designing mobile phones and tablets to be sustainable - ecodesign)に関するイニシャティブ(新たな取組み) 1) が進められています。 本年8月31日、携帯電話、コードレス電話およびタブレット端末のエコデザイン要件に関する委員会規則案が公表され、9月28日まで意見募集が行われました。 この規則案は本年第4四半期での採択が予定されています。
本稿では、その概要について解説します。
1.エコデザイン指令との関係
まず今回の委員会規則案はエコデザイン指令2009/125/EC 2) に基づいて提示されるものであるとしていますので、初めにこの指令の概要について説明します。
この指令はErP指令(energy-related products)とも呼ばれますが、2009年10月に採択され、エネルギー消費に関連する製品について、製品の原料から廃棄に至るまでのライフサイクルにおける環境配慮のための設計(エコデザイン)に対する要件の枠組みを定めており、全26条および10附属書より構成されています。 本指令の対象となる製品のEU域内の製造者、権限を与えられた代理人、あるいは輸入者は本指令に従ってエコデザインの要件を満たす様にせねばなりません。
エネルギーを消費する製品に対するエコデザインの要件を定める法令としては、本指令に先立ち指令2005/32/EC(EuP指令:energy-using products)が施行されていましたが、本指令により、適用対象は自らエネルギーを消費しなくともそれに関係する製品にまで拡大されました。
ただし対象とする製品は網羅的なものではなく、以下の基準を満たすものとしています(第15条の2):
(1) EU域内で多くの流通量がある。(年間20万ユニット超)
(2) 上市および/またはサービスが提供された量を考慮して、EU域内で重大な環境への影響を有する。
(3) 過剰なコストを伴うことなく、環境への影響を改善できる大きな可能性がある。
ECはこうした条件を満たす製品群を選定し、それら製品群に対し「実施措置」(implementing measures)と呼ばれる、エネルギー使用量やエネルギー効率等、具体的に満足すべきエコデザイン要件を定めて規制します。(第2条の3、第15条)
また実施措置の策定に際し、エコデザイン要件の定め方の具体的要領は附属書ⅠおよびⅡに規定されています。
こうした規定に基づき、これまで多くのエネルギー関連製品についてのエコデザイン要件を定めた実施措置が委員会規則という形で策定、公表されています。
なお製品群によっては、EC主導ではなく、業界の自主的な活動により策定される場合があります。(第17条および附属書Ⅷ)
また製造者または権限を与えられた代理人は実施措置の対象となる製品の上市および/またはサービスの提供前に実施措置における要件への適合性を評価せねばなりません。(第8条)
その手続きは、「内部設計管理」と呼ばれる、技術文書作成による方法とマネジメントシステムの構築の2つの方法のいずれかを選択できますが、具体的なことは、前者は附属書Ⅳ、後者は附属書Ⅴに各々規定されています。
そして適合性が確認された製品にはCEマーキングを表示します。(第9条)
今回の携帯電話等のエコデザイン要件に関する委員会規則案は、以上の様な法的根拠に基づき策定された実施措置案です。
2.今回の規則案検討の背景
2020年3月、ECは指針として新循環型経済行動計画(a new Circular Economy Action Plan)を公表しました。3) 最初の循環型経済行動計画は2015年12月に採択され、多くの課題が取り組まれてきましたが、今回の計画はそれらの成果を踏まえつつ、更新する形で策定されたものです。
これは2019年12月に公表された、温室効果ガスの実質排出をゼロとし、経済成長との両立を目指す「欧州グリーンディール」の要求する変革の推進を加速させることを狙っていますが、大きな特徴の1つとして、気候中立、高い資源効率、廃棄物の削減等の目標に適合する様な製品を確実に創り出していくために、これらの政策を法制化する取組み(持続可能な製品政策立法イニシャティブ)を打ち出していることで、その附属書には2020~2023年におけるこれらの実施項目が挙げられています。
またこうした法規制の効力を高めるため、製造者側だけではなく、「修理の権利」(right to repair)といった新たな消費者側の権利強化を図ることが織り込まれています。
今回公表された委員会規則案はこうした流れの中での取組みですが、携帯電話やタブレット端末は、以下の様な特徴があり、環境やエネルギーの面において大きな影響を有します:
(1) これら機器は、需要と共に機能拡大が著しく、消費電力や必要な原材料が増大し、特にタンタルやタングステン等の重要な金属は、社会的、経済的、地政学的な影響が大きく、その供給に不安がある。
(2) これらの機器の多くは、製品寿命終了後は再利用、リサイクル、回収等がなされずに放置されていることが多く、資源が有効に利活用されていない。
(3) これらの機器は、新規モデルの上市やソフトウエアの更新が頻繁であり、スペア部品の利用可能性の低さもあり、利用者は平均2~3年で買い替えている。
このためこれらの製品を高いエネルギー効率で、耐久性があり、消費者が容易に修理、グレードアップ、保全が可能で、かつ再使用、リサイクルが可能な様に設計することは、新循環型経済行動計画の目指すところに寄与するところは大きく、2020年12月以降、その法的規制を図るための取組みがなされてきました。
今回の委員会提案はこうした取り組みの結果、提示されたものです。 従来のエコデザイン要件に関する提案は、エネルギー効率向上を目的とするものが大部分でしたが、今回は上記の様な課題の認識がべースにあるため、次節で述べる様に、資源の有効活用にポイントを置いた内容となっています。
なお携帯電話やタブレット端末の消費エネルギー関連の取組みとしては、現在同時並行的に「環境への影響を消費者に通知するためのエネルギーラベリング」(Energy labelling of mobile phones and tablets – informing consumers about environmental impacts)に関するイニシャティブが進められています。4)
これはエネルギー効率に関する情報を分かり易く機器にラベル表示することにより、消費者側の意識を喚起することによって、市場に出回るこれら機器のエネルギー効率改善を目指しており、8月に規則案が公表され、本年第4四半期の採択を目指しています。
3.今回の委員会規則案の概要
今回公表の委員会規則案は全10条、5附属書より構成されていますが、対象となる機器をA:スマートフォン以外の移動体電話、B:スマートフォン、C:コードレス電話、D:タブレット端末の4種に区分し、各々について満たすべき、下記(1)および(2)の要件内容が提案されています。
なおCでは(1)の(ii)信頼性設計の要件はありませんが、ローパワーモードに関する要件として、待機時消費電力等が織り込まれています。また今回の案ではフレキシブルディスプレイを使用した携帯電話やタブレット端末、および高度セキュリティ通信目的のスマートフォンについては対象外としています:
(1) 資源効率に関する要件
(i) 修理および再利用のための設計:利用可能とすべきスペアパーツ、修理およびメンテナンス関係情報へのアクセスを維持すること、スペアパーツの最長納期、スペアパーツの税別限度価格を提示すること、分解に関してはパーツを再利用可能とすること等、再利用のための用意をしておくこと(ソフトウエアのリセットや保存情報の消去等)
(ii) 信頼性設計;落下時の衝撃に対する耐久性、画面の硬度(引掻き傷への耐性)、塵埃や水分への耐性、電池の耐久性その他、OSの無料更新その他
(iii) プラスティック部品のマーキング:50g超の部品にシンボル表示
(iv) リサイクル性関連の要件:分解に関する情報へのウエッブアクセスが可能なこと
(2) 情報に関する要件
(i) 技術文書の作成とそれをウエブ上で一般に利用可能とすること:メモリーカードの互換性、特に電池中のコバルト、コンデンサー中のタンタル、スピーカー・振動モーターその他磁石中のネオジム、全部品中の金といった重要な資源金属の含有量、リサイクル成分の割合、電池の耐久性等に関する情報
(ii) 取扱説明書の作成とそのウエッブ上での一般への利用を可能とすること
なお今回の委員会規則案では、これら機器のエネルギー使用の効率化に関する要件は、コードレス電話の待機時消費電力等についてのみです。
機器の待機時消費電力等については、既に委員会規則(EC)No.1275/2008 5) によって待機時および停止時、およびネットワーク化された場合の待機時の家庭用およびオフィス用電気電子機器の消費電力に関するエコデザイン要件が定められています。
今回の委員会規則案にはコードレス電話の待機時消費電力等の要件が織り込まれたので、 (EC)No.1275/2008は、コードレス電話は対象外とする様に改定するとしています。 そしてコードレス電話以外の省電力については、引き続き(EC)No.1275/2008の規制によることとなります。
おわりに
新循環型経済行動計画に基づいた各種の法整備は今後共継続されることは確実です。
今回の委員会規則案の法的根拠となったエコデザイン指令についても、本年3月にこれまでの指令から規則に変更すると共に、エネルギー効率以外の多くの要素をエコデザイン要件として導入することにより、対象をエネルギー関連からほぼ全ての製品に拡大する様な改正案が公表されています。6)
これらの取組みにより、EU各国の循環型経済への転換は、より一層推進されることが期待されるところであり、引き続き今後の動向を注視していきたいと思います。
参考URL
1)
2)consolidated text
3)
4)
5)consolidated text
6)
以上
(福井 徹)
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