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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

自動車に使用される物質のデータベースについて―IMDSとGADSL

2024年04月19日更新

はじめに

自動車産業は全世界的にも規模が非常に大きく、構成する部品点数も膨大で、使用される物質も多岐にわたります。 したがって、自動車に有害物質が使用されていると、その製造、使用から廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて地球環境に重大な影響を与えます。 環境負荷低減のためには、物質の適切な選択と使用が重要です。


これを実現していくための全世界的な自動車業界側での取り組みとして、これら物質に関する情報のデータベースの整備があります。


具体的にはIMDS(International Material Data System)およびGADSL(Global Automotive Declarable Substance List)ですが、今回はそれらの概要と最近の動向を紹介します。


1. ELVとIMDS

EUでは使用済み自動車からの廃棄物の削減や部材のリサイクル促進による環境負荷の低減を目的としたELV指令(End-of Life Vehicles Directive, 2000/53/EC)が2000年10月に施行されています。1)


これは各加盟国に対し、上記目的を達成するために促進する、あるいは必要な措置を執ることを要求するもので、その主要事項は以下のとおりです:

(1)自動車製造者は、材料や装置の製造者と協力して、設計時にその解体、回収、リサイクルを向上、促進するように設計し、有害物質の使用を可能な限り削減する。(第4条第1項)

(2)事業者は廃自動車の処理や回収のためのシステムを設置する。(第5条第1項)

(3)2003年7月1日以降上市される自動車の材料および部品中に鉛、水銀、カドミウムおよび6価クロムが各々規定の閾値以下とする。(第4条第2項)

※ここで閾値は、RoHS指令同様、カドミウムが0.01wt%、その他が0.1wt%で、均質材料(各種の機械的作用ではそれ以上異なる材料に分離できない最小単位の材料)中の濃度を指します。なお、これら物質の使用が不可避の用途については、附属書Ⅱにて適用除外として指定されます。附属書Ⅱは適宜見直しされています。

(4)各加盟国は2015年1月1日までに以下の目標(車両当りおよび年間の平均重量%)を達成する(第7条):

・再利用およびリサイクル率:85%以上

・回収および再利用率 : 95%以上

(5)自動車の製造者および輸入者は、特に再利用や回収に適している材料や部品の識別を容易にするため、所定の基準に従ったコーディングを行う。また上市された車両については、上市後6か月以内に解体情報(dismantling information)を提供すること。(第8条)


こうしたELV指令の要求、特に上記(5)の解体情報の提供のためには自動車のサプライチェーンにおける化学物質に関する情報伝達が必須であり、この対応のため1999年、ドイツ自動車工業会(Verband der Automobilindustrie:VDA)が中心となり、自動車用部品の材料や含有物質のデータベースとしてIMDS 2) が立ち上げられました。


当初はAudi, BMW, Daimler, EDS, Ford, Opel, Porsche, VWおよびVolvoの計9社が参加しましたが、順次増加し、現時点では64社が参加しています。


物質は、サプライチェーン上で材料→部品→最終製品(自動車)と順次組み込まれ、加工されていきますが、IMDS上では下流メーカーがその仕入先である上流のサプライヤに対してMDS(Material Data Sheet)を提出してもらうことによって含有物質情報の収集が行われます。


この集積によって各車の製造に関与した材料、物質を階層的、総合的に把握することができます。


IMDSは、自動車以外の事業者もユーザー登録することによって利用が可能で、169,000社以上の企業で550,000以上のユーザーIDが発行されて利用されており(2020年7月現在)、システム上には約13,000物質が含まれ、事実上の業界標準として機能しています。


2. GADSLとその2024年版

GADSLは全世界的な業界組織であるGASG(Global Automotive Stakeholders Group)による自動車製品に使用される物質のリストです。

IMDSと異なり対象物質は、上市の時点で自動車本体に含まれる、あるいはその可能性のあるものであること、また法的規制対象等の有害物質であることが特徴です。

また、日本では経産省が開発、普及を進めてきた製品含有化学物質の情報伝達スキームであるchemSHERPA 3) では、EU・REACH規則や米国・TSCAの規制対象物質と同様、GADSLは管理対象物質の基準の1つとして扱われています。

2-1.GASG

GASDL編集の担い手であるGASGは自動車の全世界的なサプライチェーンにおいて活動する自動車、それに使用される部品や化学品のメーカーや団体をメンバーとする自発的な組織です。


GASGは米国、欧州・アフリカ・中東およびアジア・太平洋の3つの地域別ブロックにより構成されています。 これら地域の参加メンバーの代表者により各地域チームが編成されて活動を行いますが、各地域チームにより推薦された各々6名のメンバーが地域チームの上位組織である運営委員会を組織しています。 これはGASGの最上位組織としてその活動を全体的に統括する意思決定機関であり、日本側のメンバーはトヨタ自動車株式会社、本田技研工業株式会社、日産自動車株式会社、株式会社デンソー、住友化学株式会社および一般社団法人日本化学工業協会です。


また各地域チームより選ばれたメンバーによりGASG連携チームが編成され、運営委員会の決定事項の施行実務を担当しています。


2-2.GADSL 2024年版

GADSLは2005年4月の初版公表以来、継続的に更新されています。 本年も2月にその2024年版が公表されました。4)


GADSLの更新については、自動車のサプライチェーンにおけるステークホルダーは、毎年7月15日までに各国あるいは地域のGASGの窓口を通じて、収載物質の追加や変更等の提案を提出することができます。


これらを受けてGASGの各地域チーム内に編成されたテクニカルチームによって具体的な検討がなされ、改正案の一式文書を作成・提出し、これをGASGが判断して更新内容を決定します。

定期的な更新は毎年2月に公表されていますが、この他にREACH規則、ELV指令等の法規制の反映の必要等から中間時点で更新される場合もあります。


GADSLの具体的内容については2023年3月24日付本コラムに解説されているのでそちらをご参照ください。5)


今回の2024年版では個別物質として約6,300種(類似した性質のため物質群として指定されたものを1件とカウントすると計290種)が収載されています。

新規追加は23物質、削除は14物質ですが、それらの主なものおよび理由は以下のとおりです:

(1)新規追加

・アントラセンオイル(CAS RN 90640-80-5)他1物質…EU REACH規則の認可対象物質

・ビス(4-クロロフェニル)スルフォン(CAS RN 80-07-9)他6物質…EU REACH規則のCLS

・N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)(CAS RN 793-24-8)…米国カリフォルニア州・消費者安全製品規則(SCP)の優先製品(6PPDを配合したタイヤ)

(2)削除

・o-トルイジン生成物質…GADSLに収載後、規制化の動きがないため

・1,2-ジブロモテトラフルオロエタン(CAS RN 124-73-2)他10物質…PFAS類の定義に該当しないため


おわりに

化学物質に対する法規制は、その用途や目的、更に国ごとに内容は多岐に渡ります。 そうした中で自動車産業に関するそれらのポイントを全世界的な観点で継続的に取り纏めているIMDSやGADSLは、現状と今後の動向を把握する上で非常に有用です。


最近ではEUの大きな政策の流れである欧州グリーンディールの中で、廃自動車のリサイクル率の一層の向上および急速なEV化を背景としてELV指令を規則化しようとする動きがあります。(2023年8月18付本コラム 6))


こうした大きな変化の中でIMDSやGADSLにも引き続きそれらの動きが反映されていくことは確実であり、今後とも注意していきたいと思います。


(福井 徹)


参考URL






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