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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

EU環境訴求指令案によるグリーンウォッシュの規制

2023年3月22日、欧州委員会から、環境訴求指令(Green Claims Directive)案が発表されました。 英語版の正式名称英語は、”Proposal for a Directive on substantiation and communication of explicit environmental claims” (*1) であり、日本語では「明示的環境訴求の裏付けと伝達に関する指令案」と訳されるでしょう。 環境訴求指令案は、2022年3月に発表されたグリーン移行における消費者のエンパワーメントに関する指令案 (*2) を補完するもので、消費者の保護を確保し、消費者がグリーン移行に積極的に貢献できるようにすることが意図されています。


環境訴求指令案の目的として、欧州委員会は以下の4つ (*3) を挙げています。


- EU全域において、環境訴求の信頼性、比較可能性、検証可能性を高める。

- 消費者をグリーンウォッシュから守る。

- 消費者が十分な情報を得た上で購買決定を行えるようにすることで、循環型かつグリーンなEU経済の実現に貢献する

- 製品の環境性能に関して、公平な競争条件を確立する


1. グリーンウォッシュからの消費者の保護

環境訴求指令案の背景には、消費者が不明瞭、または、十分に裏付けのない環境訴求、つまり、グリーンウォッシュに直面しているという現状があります。 グリーンウォッシュとは、環境に優しいという意味のgreenという言葉と、体裁をつくろうという意味のwhitewashという言葉の組み合わせで、実態が伴っていないのに、企業等が環境に配慮した取組を行っているふりをすることを指します。 欧州委員会が2020年に実施した環境クレームに関する調査において、53.3%の環境クレームが、曖昧で誤解を招く、または、環境性能に関して根拠のない情報を提供しているという結果が出ています。 さらに、環境訴求の40%が裏付けとなる証拠がないこともわかっています。


また、消費者は、透明であるとも信用できるとも言えない環境ラベルやサステナビリティラベルにも直面しています。 環境ラベルは、環境訴求の一部として使用され、トラストマークや品質マークなどの形式を取り、環境の観点から、製品・プロセスやビジネスを区別し、促進するものです。 なかには、認証制度(環境ラベル制度)に基づくものもありますが、EUに存在する環境ラベルは要件、監視基準、透明性などの点でそれぞれ異なります。 また、数多くの種類の環境ラベルが存在することは、消費者に混乱をもたらす可能性があります。 EUの232のエコラベルについて調査した結果、ほぼ半数のラベルについて、検証が弱い、もしくは、実施されていないという結果が出ています。 また、消費者は、第三者認証制度に準拠したラベルと、第三者による検証が実施されていない「自主認証」に基づくラベルとの区別を認識していないこともわかっています。 つまり、EU内で広がりを見せているサステナビリティラベル・ロゴは、今後、問題になることが危惧され、サステナビリティラベル・ロゴの透明性・理解・信頼性の欠如は、消費者のグリーン移行の障害になると考えられています。


現状のEUの法制度では、グリーンウォッシュにより、消費者に対して環境性能に関する不透明で誤った情報が伝達されてしまう可能性があります。 これでは、真面目に環境に配慮した持続可能な製品を製造・販売する企業は、そうでない企業に比べて、不利な条件において市場で戦うことになります。 環境訴求指令案は、そのようなことが起きないようにするため、消費者への持続可能性情報提供に関する要件の整備やEU市場における公平な競争環境の実現を目指すものです。


2. 環境訴求指令案の内容

環境訴求指令案の適用範囲は、企業対消費者の商行為において取引業者が製品または取引業者について行う明示的な環境訴求であると第1条に規定されています。 第3条には明示的な環境訴求の裏付け、第4条には比較可能な明示的環境クレームの裏付けに関する規定があります。 そして、第5条と第6条には、環境訴求の伝達に関する規定があります。 環境ラベルに関しても第7条に規定があり、第3条から第6条に定められた要件を満たすことなどが定められています。 第8条には環境ラベルスキームに関する要件が定められています。 他にも、環境訴求の裏付けに関するレビュー、環境クレームや環境ラベルスキームの立証や伝達の検証および認証、遵守の監視、罰則などが定められています。


3.環境訴求指令案が化学物質管理に及ぼす影響

化学物質管理に関連するところでは、環境訴求指令案の前文の68項に以下の記述があります。 「最も有害な物質の使用は、特に消費者製品への使用は、人の健康と環境への重大な害を回避および防止するために、最終的には、EU内で段階的に廃止されるべきである。欧州議会および理事会の規則 (EC)1272/2008は、有害な化学物質を含む混合物や物質に「無毒」「無害」「無公害」「エコロジー」などの表示をすること、またはその物質や混合物が有害でないことを示す記述やその物質や混合物の分類と矛盾するような記述をすることを禁止している。加盟国は、このような義務の履行を確保することが求められている。持続可能性のための化学物質戦略 (CSS: Chemicals Strategy for Sustainability) で約束されているように、欧州委員会は、関連するEUの法律全体でその適用を導くために、必須用途の基準を定義する予定である。」


欧州議会および理事会の規則((EC)1272/2008)(CLP規則) への言及から、今後、化学物質や混合物のラベル表示に関しても、これまで以上に表示内容の正確性や信頼性が、そして、表示内容の裏付けが求められることが予測されます。 環境訴求指令案の適用範囲は、企業対消費者の取引と定められていますが、実際には、バリューチェーン全体に影響が及ぼされます。バリューチェーンに関して、第3条1項において、加盟国の、取引業者に明示的な環境訴求に関するアセスメントを実施させる義務について規定しています。 その (j) 項において、一次情報がない場合には、環境に関する訴求がなされる製品または取引業者の特定のバリューチェーンを代表する環境影響・環境側面・環境性能に関連する二次情報を含む、という規定があります。 つまり、直接、消費者に販売する企業ではなくても、製造・販売している製品が、バリューチェーンを通じて、EU域内の消費者に販売される場合には、含有している化学物質の情報に関する立証および伝達への対応が求められるようになるでしょう。


4. まとめ

環境訴求指令案は、通常の立法手続きを経て、今後、欧州議会と理事会の承認されることになります (*4)。 この指令により、企業は、環境訴求に関して、信頼性・信憑性や科学的な裏付けのある情報の提供を求められるようになります。 また、環境ラベルについても、規制が厳格化されるでしょう。 その結果、消費者にとって有害なグリーンウォッシュが防止されることが期待されます。


(岡本 麻代)


引用

*1 環境訴求指令案


*2 グリーン移行における消費者のエンパワーメントに関する指令案


*3 欧州委員会、グリーンクレーム(環境訴求)


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