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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

REACH規則における認可および制限への物質追加手続きとその見直し

2022年08月05日更新

REACH規則には、認可と制限という2つの規制手段があり、これらの規制対象となる物質が適宜検討・追加されてきました。 しかしながら、現在進められている「REACH規則の改正検討」において、両規制手段の手続きには課題があるとして、見直しの対象として挙げられています。


今回は、現状の認可と制限に物質が追加される手続きを整理するとともに、それらに関するREACH規則の改正に向けた検討項目について取り上げます。


1.認可対象物質の追加手続き

認可対象物質はREACH規則附属書XIVに収載されていますが、いきなり認可対象物質への追加が検討されるわけではなく、まずは認可対象候補リストに収載された高懸念物質(CLS)として特定されます。

CLSは2回/年で追加されており、半年ごとに次のような手続き1)が繰り返されています。

1) CLSへの提案意向(適宜)

加盟国等がECHAに、CLSの前提となる高懸念物質(SVHC)の特定根拠等を示したCLS提案意向を提出し、あわせて提案書の提出時期が公表されます。

2) 提案書の提出(2月、8月が提出〆切)

提案意向を提出した加盟国等によって提案書が提出され、その内容がECHAで確認されます。

3) CLS追加候補物質の公表(3月、9月頃)

次のCLS追加候補物質が公表され、45日間の意見募集が実施されます。

4) 加盟国委員会による審議(6月、12月頃)

意見募集期間に、CLS追加に関する意見が寄せられた場合には、加盟国委員会で検討が行われます。

5) 正式追加(6~7月、12~1月頃)

意見募集で意見が寄せられなかった場合や、加盟国委員会が全会一致で追加に賛成した場合に、正式追加されます。 なお、加盟国委員会が全会一致で追加に反対した場合には追加はされませんが、賛否のいずれにも全会一致に至らなかった場合には、欧州委員会(EC)に報告され、ECが追加の要否を最終決定することになります。


次に、附属書XIV(認可対象物質)への追加ですが、上記の手続きによって特定されたCLSの中から、次のような手続き2)が進められます。

1) ECHAによる優先順位付け(適宜)

用途や使用量、物質特性(PBTやvPvB)等を踏まえて、CLSを優先順位付けします。

2) ECHAによる勧告案の公表(1回/1~1.5年程度)

優先順位に基づき、認可対象物質に追加すべきと判断した物質を示した「勧告案」が公表され、3カ月の意見募集が実施されます。

3) 加盟国委員会による審議

意見募集結果を踏まえ、加盟国委員会がECHA勧告案に対する意見を採択します。

4) ECHA勧告の最終化

意見募集結果および加盟国委員会の意見を踏まえ、ECHA勧告が最終化され、ECに提出されます。

5) ECによる附属書XIV改正案の公表

ECが附属書XIV改正案を作成し、意見募集や世界貿易機関(WTO)へのTBT通知を行います。

6) 附属書XIV改正の官報公示

最終化された附属書XIVの改正が官報公示されます。


2.制限対象物質の追加手続き

制限対象物質はREACH規則附属書XVIIに収載されており、認可対象物質の追加の流れとは別に、通常次のような手続き3)が進められます。

1) 制限への提案意向

加盟国等がECHAに制限提案意向を提出し、対象物質や制限条件の概要、制限に追加する根拠、提案書の提出時期等が公表されます。

2) 提案文書の作成

提案意向を提出した加盟国等が提案書を作成します。提案書の作成にあたって必要な情報を収集するため、必要に応じて利害関係者からの情報提供を要請する場合もあります。

3) 提案書の提出と意見募集

提案書がECHAに提出され、その内容がECHA専門委員会で確認されます。提案文書が所定の要件を満たしていると判断されれば、6カ月間の意見募集が実施されます。

4) ECHA専門委員会による意見案の公表

意見募集結果を踏まえ、ECHAの専門委員会であるリスク評価委員会(RAC)の最終意見が採択され、さらに社会経済分析委員会(SEAC)の意見案が公表され、SEAC意見案について、60日間の意見募集が実施されます。

5) ECHA専門委員会による最終意見の採択

意見募集結果を踏まえ、SEACの最終意見が採択され、RACおよびSEAC最終意見が公表されるとともに、ECに提出されます。

6) ECによる附属書XVII改正案の公表

ECが附属書XVII改正案を作成し、意見募集や世界貿易機関(WTO)へのTBT通知を行います。

7) 附属書XVII改正の官報公示

最終化された附属書XVIIの改正が官報公示されます。


制限は通常上記の手続きで検討が進められますが、発がん性・変異原性・生殖毒性の区分1、2に該当し、消費者が使用する物質や混合物、成形品については、ECHAによる1)~5)の手続きを経ずに、ECが単独で制限を検討できるファストトラックの仕組みがREACH規則第68条(2)で定められています。 なお、このECのみによる手続きによって、現在附属書XVIIに収載されているエントリー50の「ゴムおよびプラスチック製品中の多環芳香族炭化水素(PAH)類」やエントリー72の「衣類等中のCMR物質」が追加されています。


3.両手続きに対する課題認識と見直しの方向性

REACH規則の施行以降、認可や制限の対象となる物質は、規制手段に応じた手続きを経て追加されてきました。 しかしながら、これまでの運用結果から認可および制限について次のような課題が挙げられ、この課題に対応すべくREACH規則の見直しが現在進められています4)。


まず、認可の手続きは重すぎて柔軟性がなく、企業と当局の両者に大きな負担をかけているにも拘わらず、情報不足等によって長期間の議論が必要となり結果として意思決定の遅れを招いていることが指摘されています。 一方、制限の手続きについては規制化に時間がかかり、重大な有害化学物質によるリスクからの消費者や専門家の十分な保護に繋がっておらず、さらに制限の根拠となる健康や環境への「許容できないリスク」の文書化は当局にとって大きな負担となっていることが課題として挙げられています。


REACH規則の見直しに向けた意見募集では、認可および制限の手続きに関するこれらの課題に対応するために、次の3種の政策オプションが提示されていました。

・オプション1:認可手続きを残したまま、明確化および簡素化を図る

・オプション2:認可と制限の手続きを統合する

・オプション3:REACH規則から認可を削除する

意見募集の結果5)では、オプション1が最も肯定的に評価され、オプション3が最も否定的な評価となりました。


なお、制限に関しては、手続き面以外にも「エッセンシャルユース概念の導入」や、ECが単独で制限を検討できるファストトラックの仕組みであるREACH規則第68条(2)を適用できる有害性や用途の拡大等もあわせて検討されています。


2006年の制定以降、認可や制限に関する大きな仕組むの改正はこれまでありませんでした。 しかしながら現在進行中のREACH規則の見直しに向けた検討次第では、認可および制限の仕組みが大きく変更される可能性があります。 現時点では2022年末にREACH規則改正案が公表される予定となっており、その内容が注目されます。


1) ECHA CLS特定手続き


2) ECHA 認可対象物質の特定手続き


3) ECHA 制限対象物質の特定手続き


4)EC REACH規則の見直しに関する活動


5)EC REACH規則の見直しに関する意見募集結果


(井上 晋一)

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