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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

DBDPE(デカブロモジフェニルエタン)の規制動向

2021年10月15日更新

はじめに

最近、DBDPEの含有制限がグリーン調達基準書などで通知され、川中の中小企業はDBDPEの用途や規制の根拠法に戸惑いが広がっているようです。


DBDPEはカナダのCEPA(Canadian Environmental Protection Act, 1999)(*1)による規制の先取りです。


1. DBDPE とは

DBDPE(Decabromodiphenyl Ethane:デカブロモジフェニルエタン)は、CAS RN ® 84852-53-9)で、別名として1,1'-(ethane-1,2-diyl)bis[pentabromobenzene]、1,2-Bis(pentabromophenyl) ethaneなどとも記述されます。


DBDPEは、5つの臭素で満たされた二つのフェニル基(ベンゼン環)が、エタン(-CH2-CH2-)で結ばれた構造です。エタンが酸素(-O-)になるとDeca-BDEです。樹脂の難燃剤などに多用されています。


カナダでは、DBDPEについて多面でリスク評価(*2)から規制を検討しています。


なお、EUのC&L Inventoryでは、有害性の分類は調和されていなく「データ不足で分類できない」としています。


2.CEPAの要求事項

カナダではCEPA(Canadian Environmental Protection Act, 1999)で化学物質の基本的な規制をします。


CEPAの基本的条項は以下になります。

(1) 新規物質は登録

CEPAでは既存物質リスト(Domestic Substances List :DSL)に収載されていない物質は、届出しない限り製造、輸入が制限されます。 


「有害物質リスト(Schedule 1: List of Toxic Substances)」の物質について、第68条(調査・検討・評価)で次の物質規制を評価します。

次の何れかの目的は、ある物質が毒性を有するか否か又は毒性を生じる可能性があるか否かを評価するため、又は附則1の毒性物質一覧表に明記されている物質を含む物質を管理するか否か又は管理する方法を評価するためである。大臣は、次のいずれかを行うことができる。

(a)データを収集または生成し、物質に関連するあらゆる事項に関して調査を実施する。

・物質への短期暴露が重大な影響を引き起こすかどうか、


以下略


様々な規制がされますが、カナダの物質規制は以下に区分(*3)されています。

・ 国内物質リスト

・輸出管理リスト

・非国内物質リスト

・優先物質リスト

・有毒物質のリスト

・仮想排除リスト

・海上で処分される可能性のある廃棄物またはその他の物質

・非法定リスト


(i)有毒物質

有毒物質は、第64条で以下の定義となっています。


物質が以下の量、濃度や条件で環境に侵入する、または、その可能性がある場合は、有毒である。

(a) 環境又はその生物の多様性に即時又は長期的に有害な影響を及ぼし、又は及ぼすおそれがあること;

(b) 生命が依存する環境に対する危険を構成し、又は構成するおそれがあること。

(c) カナダにおいて人の生命又は健康に対する危険を構成し、又は構成するおそれがあること。


(ii)禁止物質

製造、使用、販売、およびそれらを含む製品の販売または輸入を禁止する有毒物質の規則として“Prohibition of Certain Toxic Substances Regulations, 2012”(*4)があり、都度改正されます。

日本の化審法の特定化学物質、REACH規則の認可、制限物質のイメージです。


(iii)用途制限物質

CEPAは、DSLのなかで有害性がある物質は「有害物質リスト」に収載されます。


第81条で、有害物質リストに表示されている「重要新規活動」でその物質を使用、製造又は輸入してはならないとされています。


この規定は有害物質リスト収載物質のすべてについて規定されていませんが、対象は「管理対象有害物質(List of toxic substances managed under Canadian Environmental Protection Act)(*5)で確認できます。


(2) 重要新規活動とは

アメリカのTSCAの第5条のInventory 収載物質について、特定用途しか認めない「重要新規利用規則(SNUR)」があります。

同様の規定がCEPAでは第80条にあります。


「重要新規活動」(significant new activity)には、物質に関し以下の結果をもたらすか又は結果をもたらす可能性のあるあらゆる活動が含まれる。

(a) 環境大臣の見解で、以前に環境中に投入された又は環境中に放出された物質の量又は濃度よりも著しく大きい量又は濃度での物質の環境中への投入又は放出がある;または

(b) 物質の環境への侵入もしくは放出、又は物質へのばく露もしくは環境の潜在的ばく露が、環境大臣の見解では、物質が以前に環境中に侵入もしくは環境中に放出された方法及び状況、又は物質への以前のばく露もしくは環境の潜在的ばく露とは著しく異なる方法及び状況であること。


第104条で「重要新規活動」は、大臣がこれまで環境に侵入した又は環境中に放出された量又は濃度よりも著しく多い量又は濃度で、環境中に侵入又は放出をもたらし、又はもたらし得るあらゆる活動が含まれるとしています。



3.現時点でのDBDPEの規制

特定物質について、規制状況を検索(*6)できるようになっています。

CAS RNや物質名を入れると現行の規制事項が分かります。


CAS RN ® 84852-53-9 で検索すると、官報による規制内容などが時系列で表示されます。

直近の官報(2018.4.28)(*7)では以下となっています。

本物質(DBDPE)を、熱可塑性部品、熱可塑性コーティング、熱硬化性部品および熱硬化性コーティングを製造するための難燃性成分としてのみ使用するために、本物質を輸入することができる。

難燃剤としてのみ使用できる、逆には、難燃剤としては使用できます。


4. DBDPEの新たな規制

DBDPEの第68条のリスク評価で以下の結論(*8)を出しています。


このスクリーニング評価案に示された利用可能なすべての証拠を考慮すると、DBDPEによる環境の広範な完全性には影響を及ぼさないものの、生物への有害性のリスクがある。

DBDPEは、環境またはその生物学的多様性に対して即時または長期の有害な影響を有するかまたは有する可能性のある量または濃度で、または条件下で、環境に入るか、または環境に入る可能性があるので、DBDPEはCEPA 1999の第64条(a)に基づく基準を満たすと結論付けることが提案される。

しかしながら、DBDPEは、生命が依存する環境を構成する、またはその危険を構成する可能性のある量または濃度または条件下で環境に入らないため、CEPA 1999の第64条(b)に基づく基準を満たさないと結論付けることが提案されている。

DBDPEは、残留基準を満たすよう提案されているが、残留性および生物蓄積性規則に規定されている生物蓄積性基準を満たしていない。

DBDPEは、環境中での低臭素化BDPEのような、持続性、生物蓄積性、および本質的に毒性の変換生成物の形成に寄与し得る。

環境媒体または消費者製品からのばく露推定値と実験動物で試験された最高用量との間に妥当性があり、亜慢性ばく露に対する処理に関連した影響がないことに基づいて、DBDPEは、ヒトの生命または健康に対するカナダにおける危険を構成するかまたは構成する可能性のある量または濃度または条件で環境に入っていないため、CEPA 1999の第64条(c)に基づく基準を満たさないことが提案される。


このリスク評価を受けて、規制の改正案が公開されました。改正案の説明(Proposed amendments to the Prohibition of Certain Toxic Substances Regulations: 2018 consultation document)(*9)にDBDPEが入っており、2021年秋には公布する予定です。


規制内容(案)は「DBDPEおよびDBDPEを含むすべての製品の製造、輸入、使用、販売、販売を禁止する規制を改正することを提案する。」となっています。


DBDPEの全面的に使用を禁止する提案が今秋公布される見込みで、この先取りで一部川下企業がグリーン調達基準書等を改定し、サプライヤーに通知したものと思われます。


(松浦 徹也)


引用

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