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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

欧米におけるPFAS類の規制強化の動き

ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS類)は、非常に化学的に安定していること等の性質から多様な用途で活用されてきました。 しかしながら、残留性や毒性によって、PFAS類の代表的な物質の一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)類やペルフルオロオクタン酸(PFOA)類は、ストックホルム条約の対象物質となる等、規制が強化されてきました。


既に規制されたPFOS類やPFOA類に加え、これら物質の代替物質等として利用されるその他のPFAS類についても、直近でEUや米国で規制化の動きが散見されており、PFAS類は、今最も注目されている物質群の1つであると言えます。

そこで、今回はPFAS類に関する最近の動きを整理してみます。


1. ストックホルム条約

<PFHxS類>

2019年の第15回残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC15)でペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)類を第10回締約国会議(COP10)1)に提案することが決定されています。第10回締約国会議は2021年7月に開催予定でしたが、一部議題はオンラインで開催されたものの、物質追加の採択等の議題は2022年6月に延期されました。


<特定のPFCA類(C9~C20)>

カナダ政府が8月に、特定のペルフルオロカルボン酸(C9~C20 PFCA)類をストックホルム条約の廃絶対象物質に提案したことを発表2)しました。これにより2022年1月に予定されるPOPRC17から追加検討が開始されることになります。


2. EU REACH規則の制限

<特定のPFCA類(C9~C14)>

欧州委員会(EC)は8月5日、REACH規則附属書XVIIエントリー68として、特定のペルフルオロカルボン酸(C9~14 PFCA)類を新たに制限するREACH規則附属書XVIIの改正((EU) 2021/1297)を官報公示3)しました。

これによりにより、原則2023年2月から、C9~14 PFCAとその塩類の合計が25ppb以上、またはC9~14 PFCA関連物質の合計が260ppb以上含有する物質・混合物・成形品の上市や使用が制限されることになります。ただし、POPs規則の対象となっているPFOA類と同様に一部の用途については、適用時期が延伸されています。


<PFHxS類>

ストックホルム条約でCOP10での採択待ちとなっているPFHxS類については、2020年6月に欧州化学品庁(ECHA)内の専門委員会が最終意見を採択済4)であり、ECによる法案検討段階となっています。


<PFHxA類>

ドイツが提案していたペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)類の制限提案について、ECHAは7月に専門委員会の意見案を公表し、意見募集が開始5)されました。今後、寄せられた意見を踏まえ専門委員会の最終意見が採択され、ECによる法制化手続きが進められることになります。


<すべてのPFAS類>

ECが2020年10月に公表した「持続可能な化学物質戦略」6)で、「必要不可欠な用途を除き、すべてのPFAS類を物質グループとして禁止する」方針が示されていました。

すべてのPFAS類に関しては、2020年10月にECHAが「消火剤中のPFAS類」の制限提案意向7)が提出していましたが、7月にはドイツやデンマーク等の5加盟国が共同で、新たなPFAS類の制限提案意向8)を提出しました。

5加盟国は制限提案文書の作成に向けた意見募集9)を行っている段階で、現時点では具体的な用途や除外等の条件は明確になっていませんが、持続可能な化学物質戦略を受けて、成形品中の含有を含め、幅広い用途が制限対象として検討されるものと想定されます。


3. 米国 TSCA

<特定のPFCA類(C7~C20)>

米国環境保護庁(EPA)は2020年7月に、特定のPFCA類(C7~C20)に関する重要新規利用規則(SNUR)を官報公示10)しました。

これにより、輸入成形品の表面コーティング中の特定のPFCA等が新たにSNURの対象となり、輸入開始前に重要新規利用届出(SNUN)を当局に提出することが求められるようになりました。


<すべてのPFAS類>

さらにEPAは6月に、TSCA第8条に基づく新たな下位規則として「PFAS類の報告および記録保管要件に関する規則」案を公表11)しました。

この規則案では、2011年1月1日以降の任意の年にPFAS類そのものやそれらを含む混合物や成形品を製造・輸入した企業に対して、化学物質情報や用途、濃度範囲、製造・輸入量などの報告を1回限り求める内容となっています。今回の規則案はEPAが米国市場におけるPFAS類の情報を把握することを目的としており、今後の監視や規制化に向けた第一歩として位置づけられています。


4. 米国 メイン州法

連邦法であるTSCAに加え、各州においてもPFAS類に関する規制が進められています。PFAS類の規制を検討している州の多くは、食品接触材や子供向け製品等、特定の製品種に絞った規制ですが、7月にメイン州で制定された「PFAS類の汚染防止法」12)はすべてのPFAS類を対象に、現状すべての製品が対象となっています。

メイン州法では、2023年1月からPFAS類を意図的に添加した製品の報告制度を開始し、情報収集を図るとともに、PFAS類を意図的に添加したカーペットやラグ等の一部製品の販売等が禁止されます。 また、報告制度によって収集した情報をもとに、必要不可欠な用途を特定し、2030年1月以降は必要不可欠な用途を除き、PFAS類を意図的に添加した製品の販売等が禁止される予定となっています。


5.最後に

EUおよび米国におけるPFAS類の規制化の動きを整理しました。既に規制されたPFOS類やPFOA類から、徐々に他のPFAS類に規制対象が拡大していることが確認できるかと思います。

EUでは個々のPFAS類からすべてのPFAS類をグループとしてとらえた制限化の検討が開始されています。 一方、米国ではまずは現状把握としての報告要件の整備が進められています。 また、これら各国の規制化の動きは、ストックホルム条約への物質追加提案等を通じて、世界的な規制に繋がることも想定され、今回取り上げた各種動向の今後が注目されます。


(井上 晋一)


1)ストックホルム条約 第10回締約国会議


2)カナダ政府 LC-PFCAに関する情報


3)EU官報 (EU) 2021/1297


4)ECHA 制限提案の状況(PFHxS類)


5)ECHA 制限提案の状況(PFHxA類)


6)EC 持続可能な化学物質戦略


7)ECHA 制限提案の状況(消火剤中のPFAS類)


8)ECHA 制限提案の状況(PFAS類)


9)ドイツ PFAS類の制限


10)米国 特定のPFCA類(C7~C20)のSNUR


11)米国 PFAS類の報告および記録保管要件に関する規則案


12)米メイン州 PFAS類の汚染防止法


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