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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

労働安全衛生法のラベル・SDS対象物質の追加について

2021年09月03日更新

労働安全衛生法(以下、安衛法)においては、ご承知の通り、化学品の譲渡、または、提供時に、ラベル貼付とSDSの提供が義務付けされている化学物質として674物質(群)が指定されています1)。今回、236物質が新たに追加するため検討が行われています2)。


3月5日のコラムで、厚生労働省で開催されていました「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の「中間まとめ」について、ご紹介しました。 この検討会の「報告書」が、2021年7月19日に公表されました3。このコラムでは、「中間まとめ」と重複するところがありますが、あらためて検討会の「報告書」から、安衛法の改正の方向性を整理しながら、ラベル・SDS対象追加候補物質の内容にについてご紹介します。


なお、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」は、2019年から2021年7月14日まで15回にわたって開催されてきたものです。 検討会では、職場における化学物質等の現状分析を行い、国際的な規制動向も踏まえて、安衛法の改正の進め方について提案が行われています。


検討会における、現状分析では、

・国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類もある。

・しかし、それら物質の中には危険性や有害性が不明な物質も少なくない。

・安衛法では、労働災害を防止するために特化則や有機則等で、規制している物質はあるが、近年の労働災害はこれらの規則で規制されていない物質により発生している。

と明らかになったとして、安衛法の改正を速やかに行うことが提言されています。


この報告書を受けて、厚生労働省は速やかに労働安全衛生法に基づく関係法令の改正の検討を進める方針であると報道発表しています。


改正検討に当たっての基本的な考え方は、報告書を提言に沿って、労働者のばく露防止対策等を定めた化学物質規制体系を、化学物質ごとの個別具体的な法令による規制から、自律的な管理の仕組みへと改正されることになっています。

その原則として、下記の2点があげられています。

・ばく露濃度等の管理基準を定め、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みを整備・拡充する。 

・事業者はその情報に基づいてリスクアセスメントを行い、ばく露防止のために講ずべき措置を自ら選択して実行する


「化学物質の自律的な管理」のための改正として、特に注意していただきたいことは、 化学物質を譲渡・提供する場合のラベル表示・安全データシート(SDS)交付を義務づける対象を、現時点(2021年9月3日)の674物質(群)から、約2,900物質までの拡充すされることです。


2020年までに、国によりGHS分類がされている物質については(674物質及び環境有害性のみの分類される物質を除く約1,800物質)、下記のスケジュールで拡充が検討されます。

2021年度;約250物質(発がん性、生殖変異原性、生殖毒性有害性で区分1の有害性物質)

2022年度;約700物質(上記以外で、区分1有害性物質)

2023年度;約850物質(その他の物質)

2024年度;約150~300物質(2021~2023年に新たに分類される物質)

2025年度以降;約50~100物質(前年度に分類される物質)


冒頭にご紹介しました今年2021年度に拡充が検討されている候補物質が公表されました。この公表は、安衛法見直し検討に必要な情報収集のための意見聴取のためのもので、安衛法通常行われる法規制のパブリックコメントによる意見募集ではありません。検討に関し、「基準・認証制度の創設等の取扱い」(昭和60年9月30日アクション・プログラム実行推進委員会)に基づき、外国関係者の意見陳述の機会を設けるためのものです。意見陳述を行うことができる者は、公表された物質及びこれらを含有する製剤その他の物の製造・輸入、販売等に関係する者で、外国籍を有する者、日本国籍を有する者で外資系企業に勤務する者となっていました。日本企業は含まれていませんでした。意見聴取は2021年8月30日に行われましたが、その状況については把握できていません。


候補物質しては、「発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性及び急性毒性のカテゴリーで区分1相当の有害性を有する」物質として236物質がリストされています。


全てのリスト物質を示せませんが、1番目として「アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(CAS RN® 2439-35-2)」がリストされています。「職場のあんぜんサイト」のモデルSDSのGHS分類を見ますと次の通りです。


健康に対する有害性 急性毒性(経口) 区分4

急性毒性(経皮) 区分3

急性毒性(吸入:蒸気) 区分1

急性毒性(吸入:ミスト) 区分2

皮膚腐食性/刺激性 区分1

眼に対する重篤な損傷/眼刺激性 区分1

皮膚感作性 区分1A

生殖毒性 区分2

特定標的臓器毒性(単回ばく露) 区分1(呼吸器系、全身毒性)

特定標的臓器毒性(反復ばく露) 区分2(全身毒性)


また、27番目の「エチレングリコールジエチルエーテル(CAS RN® 112-36-7 )」の「職場のあんぜんサイト」のモデルSDSのGHS分類は下記の通りです。


健康に対する有害性 眼に対する重篤な損傷/眼刺激性 区分2A


EUのCLP規則では、「調和された分類」はされていません。C&L Inventory4)の届出された分類で最も多い分類は、上記「職場のあんぜんサイト」の分類と同じです。

2件の候補物質のGHS分類(2021年8月31日時点の確認)は、今回の候補選択の基準に合っていません。ただ、GHS分類の見直しが毎年おこなわれていますの、2020年度以前にGHS分類の見直しが完了しているが、公開されているGHS分類の更新されていない可能性はあります。


国が行ったGHS分類がまだ行われていなかったり、見直しが済んでいるがその公開が遅れたりする場合がある場合は、候補物質の見直しがあるかも知れません。

しかし、ラベル・SDS対象物質の拡充はされます。法令の改正には、少し時間を要します。また、施行までには猶予期間が設けられることになると考えます。

今回の安衛法の見直しにより、化学品の提供される事業者にとっては、負担が多くなりますが、追加される物質ついてはご留意ください。


なお、「自律的な管理」の中には、皮膚腐食性/刺激性や皮膚吸収性による健康障害のおそれがある物質については、保護眼鏡、保護手袋、保護衣の使用を義務付ける規制を設けることが検討の課題に挙がっています。「アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル」を候補としているのは、その検討のためのものではないかとも考えることもできます。皮膚腐食性/刺激性や皮膚吸収性の物質についても取り扱いには注意が必要になります。


参考資料





(林  譲)

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