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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

EU玩具安全規則の制定に向けた動きについて

2024年06月14日更新

EU域内で玩具を規制する玩具の安全性に関する指令(玩具安全指令2009/48/EC)(*1)は、改定が検討されており、その状況は当コラムでも以前にご紹介しました(*2)。この検討は過去にEU全体で一貫性のない規制改正が適用されていることや製品パスポートの導入によりEU域外国境での関連規制となるため、基礎となる法的文書が規則である必要があることなどから規則として規制する方向で検討されています。こうした流れの中、EU委員会は2023年7月28日に「玩具の安全性に関するEU議会および理事会の規則の提案と玩具安全指令(2009/48 / EC)の廃止」を提案しています(*3)。この提案に対し、EU理事会は2024年5月24日に玩具安全規則案に関する見解を採択しました(*4)(*5)。

 

◆玩具の安全性に関するEU議会および理事会の規則の提案と玩具安全指令(2009/48 / EC)の廃止

 

前述の通り、EU委員会より玩具の安全性に関する規則への更新案が提案されています。この玩具安全規則案のポイントについて、以下に記載します。

 

適用範囲と定義

玩具安全指令からの変更はなく、「玩具」の定義についても変更がありません。ただし、新たに導入される製品パスポートに関連する定義が追加されています。適用除外となる製品(附属書Ⅰ)や玩具の要件(附属書Ⅱ)については、玩具安全指令の要件を維持します。

 

玩具に関する特定の安全要件

(i)~(vi)の表題に変更はありませんが、(iii)化学的性質の項目は、制限される物質に追加があります。従来の指令では発がん性、生殖細胞変異原性または生殖毒性といういわゆるCRM物質が制限の対象でしたが、規則案ではCRM物質に加えて内分泌かく乱物質、呼吸器感作物質、および特定の臓器に有毒な物質が追加されています。

 

事業者の義務

従来の玩具指令では先にあげた安全要求を満たしたうえでCEマーキング対応を行い、適合宣言書を作成して対応する必要がありました。今回の規則案においては、CEマーキングが継続するものの、適合宣言書は不要となり代わりに製品パスポートで対応するように変更されています。

 

玩具の適合性の推定

製造業者がEU連合官報に掲載された関連する整合規格またはその一部を適用する場合の玩具の適合性の推定は引き続き維持されています。

 

製品パスポート

製品パスポートは、データキャリアを介して一意の製品識別子に接続され、「持続可能な製品のエコデザイン要件を設定するための枠組みを確立し、指令2009/125/ECを廃止する規制案」(*6)で検討されている製品パスポートと整合し同じ技術要件を満たすことが求められます。前述の通り、製品パスポートは適合宣言書に代わり導入されるものであり、今回の改定のポイントとなります。

 

玩具は消費者製品に含まれる特定のセクターとして位置づけられています。したがって、玩具の規制でカバーされていない事項については一般製品を規制するGPSRで補完することになります。このような位置づけもあり、GPSRで規定されているオンライン販売に関する内容は玩具安全指令の改定においても論点の一つとなります。

 

◆EU理事会の玩具安全規則に関する見解

 EU委員会からの提案を受けて、EU理事会は作業部会を設置し、9回にわたり検討が進められました。この作業部会で重視した事項として、以下の3点をあげています。

 

・製品パスポートに関する規定を持続可能な製品のエコデザイン要件設定の枠組み(*6)と整合させる。

・玩具の潜在的なリスク、特に有害化学物質によるリスクから子供を高いレベルで保護する。

・合理的な状況で玩具に含まれる特定の化学物質の一般的な禁止の例外を認めることで利害関係者間のバランスをとる。

 

この採択の中でEU理事会は、目的として記載されているCMR物質を含有する製品の禁止を内分泌かく乱物質や呼吸器系やその他の臓器に影響を与える化学物質などの他の危険な化学製品に拡大することや製品パスポートで施行規則を強化する立場を支持することを表明しています。

また、今回の見解において理事会の検討により追加した内容の主なものを以下に記載します。

 

①表示に関する内容

関係加盟国が決定する消費者およびその他の最終使用者が容易に理解できる言語で玩具に警告を表示することを保証する。

 

②オンライン販売に関する内容

近年におけるオンライン販売量の増加を考慮して「フルフィルメントサービスプロバイダー」や「オンラインマーケットプレイス」に関する義務を追加しています。


ここでいう「フルフィルメントサービスプロバイダー」とは、商業活動の過程で、郵便サービスを除き、関連する製品の所有権を持たずに、倉庫保管、梱包、住所指定、発送の少なくとも2つのサービスを提供する自然人または法人を意味します。また、「オンラインマーケットプレイス」は消費者が製品の販売のためにトレーダーと遠隔契約を締結できるオンラインインターフェースを使用する仲介サービスのプロバイダーを意味します。

例えば、オンラインマーケットプレイスの提供者の義務としては、運営するオンラインマーケットにおいてCEマークや警告の表示、製品パスポートにアクセスできるような設計をすることなどがあげられています。

 

◆最後に           

今回公表されたEU理事会による見解を受けた次のステップはEU議会での採択を経た交渉の開始となります。この交渉の結果、EU玩具安全規則の最終案がどのようなものになるのかは、今後の進展状況しだいとなりますので、利害関係者はその動向に注目しておく必要がありそうです。

 

(*1) 玩具安全指令2009/48/EC

(*2) 玩具安全指令における改定の動き

(*3) 玩具の安全性に関するEU議会および理事会の規則の提案と指令2009/48 / ECの廃止

(*4) 玩具の安全性:EU理事会が玩具安全指令の更新に関する見解を採択

(*5) EU理事会の玩具安全規則への更新に関する見解

(*6) 持続可能な製品のエコデザイン要件を設定するための枠組みを確立し、指令2009/125/ECを廃止する規制案

 

(長野 知広)

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