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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EUエコデザイン指令(ErP指令)実施規則修正の動向

2024年08月16日更新

欧州委員会(European Committee:EC)は、エコデザイン指令(以後「ErP指令」)における冷暖房機器等の委員会規則(以後「実施規則」)修正案に対する意見募集(Call for Evidence)を2024年6月21日から8月31日までの期間で開始しました。1)

今後、意見募集の内容を検討して2025年第4四半期の法案採択を目指しています。


ご存知のように、2024年6月28日に持続可能な製品エコデザイン規則(以後ESPR規則)が官報公示2) され新法が発効したことにより、ErP指令は同年7月19日から廃止となっています。

ただし、ErP指令対象製品に関する旧法による実施規則の制定・修正はESPR規則第79条により原則2026年12月31日まで可能であり、実施規則自体はESPR規則の新たな実施規則でその廃止が宣言されるまで引き続き有効となっています。

ESPR規則の実施規則策定の作業計画は2025年4月19日までに策定が予定されて、最初の実施規則自体は2025年7月19日以降に策定される予定ですので、それまでは実質的にErP指令の実施規則がESPR規則の実施規則と見なされます。


ECは、これまでも製品グループ毎に規制内容の見直しを行ってきました。最近の例では、2023年11月家庭用回転式乾燥機 3)、2024年4月局所空間ヒーター等 4)の実施規則修正公示、コンピューターの実施規則修正案に対する意見募集(パブリックコンサルテーション) 5)、及び2024年7月モーターファンの実施規則修正公示 6)を行っています。


これらは、規制内容が技術および市場の発展に照らして、適切で効率的かつ効果的であり続けるよう定期的に見直す措置として行われています。その優先順位付けは、エコデザインとエネルギーラベリング作業計画 2022-2024(以後「作業計画」)7)に従って行われています。

したがって、作業計画を見ることにより今後の実施規則の修正動向を知ることができます。


1.エコデザインとエネルギーラベリング作業計画 2022-2024(作業計画)の概要

1.1.目的

既存の規則を定期的に見直し、適応させ、市場や技術の発展に照らして、規則が適切で効果的であり、目的に合致していることを保証するための優先順位付けと作業計画を示すことを目的としています。


1.2.概要

現在の作業計画は、ErP指令発効後から2009~2011年、2012~2014年、及び2016~2019年の作業計画を経て4代目となります。

カバー範囲は、ErP指令に加えてエネルギーラベリング枠組み規則及びタイヤラベリングに関する進捗状況も評価していますが、本稿ではErP指令に焦点を当てて見直しの優先順位と計画について説明します。

ErP指令のカバー範囲は、2024年7月時点で32製品グループと製品グループ共通の「スタンバイ、ネットワークスタンバイ、オフモード」の各モードにおける消費電力となっており、最新情報はECホームページ 8)で確認できます。このカバー範囲の製品で、EUの最終エネルギー消費量の約半分を占めています。


作業計画には、ErP指令の省エネルギー、温室効果ガス削減効果及び追加事業収益とそれに伴う新規雇用効果の評価(推定値)が含まれています。

また、これまでの作業計画の現状と教訓及びそれを踏まえた今後数年間の製品毎の優先事項、製品グループ共通の新しい切り口として循環型経済への貢献、技術標準化作業、エネルギーラベル製品登録(Europian Product Registry for Energy Labelling:EPREL)9)、市場監視、及び国際協力などの活動方針が盛り込まれています。

特に循環型経済への貢献として、耐久性、リサイクル性、修理・再利用・アップグレードの能力、リサイクル内容などを含むエネルギー関連製品の材料効率の側面に関する横断的規格を制定し、今後の製品グループ毎の実施規則に反映されていく点は今後の動向を見ていく上で重要なポイントとなります。


1.3.今後の優先事項

ECは既存の実施規則の見直しとして、2024年末までに38件のレビューを提示または採択する予定であり、2025年にはさらに8件のレビューを提出または採択を予定しています。

そのうち、(1) 冷暖房機器、(2) エネルギーラベルの再スケーリングが必要なその他の製品グループ、及び(3) エネルギーや材料の節約に関して大幅な追加節約の可能性を示し、長い間延期されていた、または特定の状況により修正が明確または緊急に必要であることが示唆されているその他の特定の製品(例:水ポンプ、ファン、外部電源)の3つを優先するとしています。

前述の冷暖房機器、モーターファン、局所空間ヒーター、及びコンピューター等がこれに該当します。


以前の作業計画から引き継いで新たな実施規則策定を計画している製品として、携帯電話とタブレット、太陽光発電モジュールシステム、ICT機器、及び住宅用エネルギースマート家電が検討されています。


新たな調査対象となる製品グループとしては、低温エミッター(ラジエーター、コンベクター等)、業務用洗濯機、業務用食器洗浄機、ユニバーサル外部電源装置(EPS)、及び電気自動車充電器を挙げています。


2.事例としての冷暖房機器等の委員会規則(実施規則)修正案意見募集

冒頭に取り上げた冷暖房機器等の実施規則修正案を事例として、作業計画に示された修正方針がどのように反映されているかを検証します。


2.1. 修正案検討の背景

冷暖房機器等のエネルギー消費量はErP指令に基づくこれまでの取り組みで削減効果が見られますが、依然としてエネルギー使用と温室効果ガス排出の大きな要因となっています。これらの製品は、2020年には年間約600TWhの一次エネルギーを消費し、冷房機器は一次エネルギーの大部分(~400TWh/year)を消費する。これはEU加盟27カ国の一次エネルギー消費量の約5.6%に相当しています。


さらなる削減の可能性として、分析の結果次の5項目が指摘されています。

1)エコデザイン実施規則の適用範囲に含まれる製品について、要求事項が古いため経済的に実行可能なすべての節約を実現できていない。

2)フッ素系温室効果ガス規則(以後「Fガス規則」)10) の改正など、他の法律の見直しも関連する可能性がある。

3)現在エコデザイン実施規則の適用範囲外の製品から、達成可能なエネルギーと排出の削減ができるかもしれない。例えば、蒸発凝縮・吸収技術を使用した高温プロセス用冷凍機、情報技術用冷却装置、コンビネーション温風ヒーターなどの製品群である。

4)熱回収、フリークーリング、同時冷暖房など、一部の省エネ機能や製品は含まれていない。

5)材料効率を高め、循環型経済により貢献できる可能性がある。


以上を踏まえて、今回の修正案となっています。


2.2.意見募集を求める修正案の骨子

意見募集を求める今回の修正提案のポイントは以下の4点で、一般市民や利害関係者に情報を提供し、計画中の取り組みに関する意見を収集することが目的です。特に、分析を実施するための質的データ(利用可能な技術、消費者や環境団体の意見など)と量的データ(販売や価格、試験結果などの市場データ)の提供を求めています。

1)特にフリークーリングと熱回収を含めるようにしたことの影響

2)国際的なベストプラクティスと、エネルギー効率、騒音、NOx最大排出量規制を含む関連EU規制を考慮したエコデザイン要件の強化について

3)エコデザイン実施規則の適用範囲を拡大し、冷温水残温度が12℃を超えるプロセス用冷凍機や情報技術用冷却装置(クローズ・コントロール・エアコン)を含めることの影響

4)材料効率と循環型経済に関する側面


以上を俯瞰すると、作業計画で取り上げられていた温暖化ガス削減や循環型経済への対応が盛り込まれていることが分かります。


3.まとめ

今回は、2024年7月のESPR規則発効と同時に廃止となったErP指令、その後に意見募集されたErP指令の実施規則修正の動きに関して、相互の関係性を整理してみました。

本稿で説明のとおり、ErP指令の実施規則は今後ともESPR規則の実施規則の一部として引き続き評価・検討が行われていきます。

したがって、エネルギー関連機器のエコデザイン基準に関しては従来の作業計画に則って見直し修正が行われていきますので、確認が必要です。

なお、従来の作業計画にはESPR規則を先取りして強化する方針も盛り込まれていますので、注意が必要です。

(杉浦 順)


参考文献:

1) ErP指令における冷暖房機器等の実施規則及びエネルギーラベリング修正案に対する意見募集

2)持続可能な製品エコデザイン規則(ESPR規則)官報公示

3)ErP指令における家庭用回転式乾燥機の実施規則修正公示

4)ErP指令における局所空間ヒーターの実施規則修正公示

5)ErP指令におけるコンピューターの実施規則及びエネルギーラベリング修正案に対する意見募集

6)ErP指令におけるモーターファンの実施規則修正公示

7)エコデザインとエネルギーラベリング作業計画 2022-2024

8)ErP指令対象製品(EC/HP)

9)エネルギーラベル製品登録(EPREL)

10)フッ素系温室効果ガス規則(Fガス規則)

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