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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

EUの環境法の動向(その1)

2024年11月05日更新

2024年は日米欧で選挙が行われ、環境政策も多かれ少なかれ変化が見込まれます。ブリュッセル効果(The Brussels Effect: How the European Union Rules the World:コロンビア大学法学部教授アヌ・ブラッドフォード)といわれるように、EUの政治的な影響力の拡大により、EU域外国の規制法やルールの形成への影響力が高まってきています。

EUは、2024年6月に議会選挙が行われ、EU委員長も10月に任期が満了となり、11月から新たな2024-2029年政策が始まります。

EUの環境政策、環境法の動向をまとめてみました。


1.理事会の2024-2029年方針「戦略アジェンダ2024-2029」について

EU理事会は、2024年6月27日の理事会で「戦略アジェンダ2024-2029 」(*1)を採択して、7月10日に公開しました。

戦略アジェンダ2024-2029は、EUの主権を高め、当面の課題と将来の課題に対処するための備えを強化するものとし、3 項目で構成されています。

(i) 自由で民主的なヨーロッパ

(ii) 強く安全なヨーロッパ

(iii) 繁栄し競争力のあるヨーロッパ

制定背景は、世界の政治情勢を反映しただけでなく、気候変動、生物多様性の損失や汚染による被害の増加などの自然環境面も入っています。


「繁栄し競争力のあるヨーロッパ」では、以下のように環境政策にも言及しています。


防衛、宇宙、人工知能、量子テクノロジー、半導体、5G/6G、健康、バイオテクノロジー、ネット・ゼロ・テクノロジー、モビリティ、製薬、化学、先端素材などの分野において、独自の能力を構築し、イノベーションを促進することが重要である。

特に、2050年までに気候変動による中立を達成するためには、グリーンとデジタルの移行を成功させ、安定した枠組みを整えることが求められる。これにより、EUの製造能力が拡大し、国境を越えたインフラへの投資が進むことで、エネルギー主権を高めることが可能になる。

また、エネルギー転換を加速し、豊富で安価なクリーンエネルギーを確保するためには、ネットゼロ・低炭素ソリューションを導入し、送電網や蓄電、相互接続への投資が不可欠となる。

循環型経済の発展やクリーン・テクノロジーの産業開発を進めることによって、バイオエコノミーの恩恵を享受し、スマートモビリティを受け入れる基盤を整える。

さらに、自然保護や生態系の回復、水の回復力の強化に努めることも大切である。 最後に、EUの研究・技術革新能力を強化し、公正な競争環境を維持するために、不公正な慣行と闘うことが必要である。これにより、主要部門における産業力の強化が図られ、持続可能な成長が促進されるであろう。


2.EU委員会の2024-2029年方針について

7月18日の議会で、EU理事会から次期委員長として指名を受けたウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長候補がEU委員会の2024-2029年方針「ヨーロッパの選択 政治ガイドライン 次期EU委員会に向けて 2024-2029」“POLITICAL GUIDELINES FOR THE NEXT EUROPEAN COMMISSION 2024-2029”(*2)を発表しました。

この「ヨーロッパの選択」は、EU理事会の「戦略アジェンダ」を受けてEU委員会の次期方針を具体化したものです。

「戦略アジェンダ」の具体的方針ですので、多岐にわたりますが、環境政策は、以下のような政策方針が示されています。


私(ライエン委員長候補)の見解では、安全保障から気候変動、競争力に至るまで、私たちの時代の最大の課題は共同行動によってのみ解決できます。私たちの脅威は個別に対処するには大きすぎます。

このような背景から、私はヨーロッパが最善の選択肢、つまり連合を選択しなければならないと信じています。

ヨーロッパが再び団結して前進するときが来ています。

過去 5 年間、グリーンディールから 次世代EU、移民と庇護に関する協定、EU社会権の柱の実施まで、私たちは共に多くのことを達成してきました。

EUグリーンディールに定められた目標を含め、すべての目標を順守しなければなりませんし、今後もそうしていきます。

2030 年以降に向けた一連の集中的かつ共同の目標を定義し、これらの優先分野に明確な目標と成果を持たせたいと考えています。

・防衛と安全保障

・持続可能な繁栄と競争力

・民主主義と社会的公正

・世界をリードし、ヨーロッパで成果を上げる。


EUグリーンディールで設定された目標を守り続けなければなりませんし、そうするつもりです。

気候危機は急速に加速しています。そして、経済の脱炭素化と工業化を同時に進めることも同様に緊急に必要です。

私たちは、2030年に向けて既存の法的枠組みを、最もシンプルで公平かつ費用効率の高い方法で実施することに焦点を当てなければなりません。

私たちは、任期の最初の100日間で、競争力のある産業と質の高い雇用のための新しいクリーン産業協定を必要としています。

企業が共通の目標を達成するための適切な条件をサポートし、簡素化、投資、安価で持続可能かつ安全なエネルギー供給と原材料へのアクセスの確保をします。

これは、EU気候法に盛り込むことを提案する2040年までの排出量90%削減目標への道を開くでしょう。

2025年にブラジルで開催されるCOP30に先立ち、世界的な気候とエネルギーのビジョンを打ち出します。また、グリーン外交を強化し、政策の外部的な側面についてEU以外の国々とより深く関わっていきます。

2050年までに気候中立を達成するには、モビリティからエネルギーまで、さまざまな分野で革新的なテクノロジーが必要になります。たとえば、自動車の2035年の気候中立目標は、投資家とメーカーに予測可能性をもたらします。そこに到達するには、テクノロジー中立的なアプローチが必要であり、予想されるレビューの一環として規制のターゲットを絞った修正を通じてe-燃料が役割を果たします。


さらに、「より循環的で強靱な経済」で今後の法規制の方向性を示した記述もあります。

経済の脱炭素化に取り組むことは、より持続可能な生産・消費パターンへの継続的なシフトの一環であり、経済における資源の価値をより長く維持することです。

これは新たな循環経済法の目的であり、特に重要な原材料に関して、二次原材料の市場需要と廃棄物の単一市場の創設を支援します。

我々は、REACHを簡素化し、「永遠の化学物質」、すなわちPFASを明確にすることを目的とした、新たな化学産業パッケージを提案します。


EUグリーンディールについても記述があります。

私たちは、EUグリーンディールで定められた目標を含め、すべての目標を守り続けなければなりませんし、これからも守り続けます。

また、EUの法律、特にEUグリーンディールに関連する法律の影響を受けるパートナーの懸念に耳を傾け、より適切に対応する必要があります。


ライエン委員長は続投ですから、前期(2019-2024年)の環境政策が基本となることが示されています。

  以下 次回に続けます。


(松浦 徹也)

引用

*1:戦略アジェンダ2024-2029

*2:“POLITICAL GUIDELINES FOR THE NEXT EUROPEAN COMMISSION 2024-2029”

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