2024年11月08日更新
欧州委員会は、2024年9月20日、廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出・検証方法に関する規則案 1)を公表し、同年10月18日までの意見募集 2)を行いました。この規則案は、電池規則の要求事項を補足するものです。今回のコラムでは、本規則案の内容をご紹介します。
1. 電池規則(EU) 2023/1542における廃電池のリサイクルに関する規定
電池規則(EU) 2023/1542(以下 電池規則) 3)では、第VIII章:廃電池の管理(第54条から第76条)において、廃電池の処理やリサイクルに関する要件が規定されています。そのなかで、第71条(リサイクル効率と材料回収の目標)の第4項では、欧州委員会は、2025年2月18日までに、第89条に従って委任行為を採択し、附属書XII(リサイクルを含む保管と処理に関する要件)のパートA(保管および処理の要件)に従って、リサイクル効率と材料の回収率の計算と検証の方法論、および文書の形式を確立することにより、この規則を補足するものとするとしています。今回の規則案はこの規定に伴い、公表されたものです。なお、第VIII章の各規定は、2025年8月18日より適用されます。
2.規則案の概要
今回公表された廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出・検証方法に関する規則案では、以下のように概要が示されています。
・本規則案は、廃電池の管理を含め、EU域内で市場に投入される電池のライフサイクル全体をカバーする調和のとれた規制枠組みを構築するために必要である。
・提案される方法論は、電池業界にとって材料回収の質が高いことを保証すべきであると同時に、競争を歪めること、または廃電池からの二次原材料の域内市場の円滑な機能を妨げることなく、急速に拡大・発展する市場における研究と技術革新を促進すべきである。電池指令2006/66/ECで確立された方法論を検討し、それをもとに、電池のリサイクルと回収プロセスにおける技術開発と変化を適切に反映し、その範囲を既存だけでなく新しい電池の化学組成に拡大することが必要である。
・リサイクル効率の算出および検証方法については、達成されたリサイクル効率の計算を整合させるために、リサイクル効率の目標に影響を与える可能性のある投入および排出の割合を詳細に記載すべきである。
・材料回収率の算出および検証方法については、達成された材料回収率の計算を整合させるために、材料回収の目標に影響を与える可能性のある投入および出力の割合、および回収材料の品質に関する追加要件を詳細に記載すべきである。
・トレーサビリティを確保し、計算ルールの公平な適用を確保し、かつ、人体や環境への悪影響を最小限に抑えるため、電池規則の附属書XIIのパートAにおける項目5(水銀) および項目6(カドミウム)の各物質に関する文書の形式には、電池リサイクルプロセス内の特定可能な経路にて行われる物質の処理を文書化する方法に関する詳細な要件を含めるべきである。
・廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出に必要な書類への記入方法については、データの整合性および統一性を確保することを目的として規定すべきである。
・リサイクル効率および材料回収率の文書化のフォーマットについては、鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池、その他の電池について個別に作成し、異なる電池の化学組成特有の関連データが確実に得られるようにすべきである。
・一貫性のある調和のとれた適用を確保するため、リサイクル効率および材料回収率の検証方法については、少なくとも検証の範囲と適用する検証技術を定めるべきである。
3.附属書の概要
今回公表された規則案の具体的な条項は、附属書に示されています。以下では、附属書の概要を説明します。
(1)用語の定義
廃電池のリサイクルプロセスやリサイクル効率の算出における用語が定義されており、リチウム電池や黒色塊(ブラックマス)、不純物など7種の用語に関する定義が明記されています。
(2)リサイクルプロセスに関連して廃電池のリサイクル効率を計算する方法
リサイクル工程における廃電池のリサイクル効率の算出式が明示されています。リサイクル効率は、投入分と排出分の化学組成に基づいて計算し、リサイクル効率の割合は、鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池、その他の電池といった廃電池の各投入量について個別に算出します。
(3)廃電池のリサイクルによる材料(コバルト、銅、リチウム、ニッケル、鉛)の回収率算出方法
材料の回収率の算出式が明示されています。再資源化された材料は、過剰なコストを避けつつ、技術的に可能な限り高いリサイクル材料の含有量を満たす必要があります。
(4)電池規則の附属書XIIのパートAの項目5および項目6にリストされた物質の処理に関する文書の形式
廃電池のリサイクルから生じる水銀(項目5)およびカドミウム(項目6)を含む物質の流れは、後述の(8)および(9)の書式に従って、文書に明確に記載することが要求されています。
カドミウムについては、廃電池リサイクルプロセスから回収されたカドミウム(Cd)の算出式および、廃電池リサイクルプロセスから安全に固定化され処分されたカドミウム(Cd)の算出式が明示されています。いっぽう、水銀については、廃電池リサイクルプロセスから安全に固定化され、処分された水銀(Hg)の算出式が明示されています。
(5)廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出に関する書類記入方法
リサイクル業者は、廃電池が収集された加盟国別に分類して、上述の(2)から(4)に規定するデータと情報を毎年提供する必要があります。リサイクル業者は、廃電池が処理された加盟国の管轄当局にそれらを送付します。以下のデータと情報を、後述の(6)から(9)に規定されている文書形式を使用して提供することが要求されています。
・一次リサイクル業者の正式名称、略称、および処理が行われた加盟国を含む地理的な場所
・文書が提供される暦年
・処理された電池の化学組成(鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池、その他の電池)、およびリチウム電池の場合は、処理された主な化学物質
・文書に含まれる各処理のフローシート(リサイクルの準備から、材料の回収または安全な処分を考慮に入れた出力部分まで)
・投入、中間、および出力の各段階の詳細なリスト
・リサイクル施設(または許可された施設)で受け入れられた各電池の化学組成(鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池、その他の電池)に対して実行される各処理のリサイクル効率と材料の回収率
・(4)に従ってリサイクルまたは処分されたカドミウムの量および安全に固定化され、処分された水銀の量
(6)鉛蓄電池廃棄物、(7)リチウム廃電池、(8)ニッケルカドミウム廃電池、(9)その他の廃電池のリサイクル効率および材料回収率の文書様式
それぞれの種類に応じたリサイクルに関する文書様式(パート1)、ならびにリサイクルの手順やリサイクル施設に関する文書様式(パート2)が明示されています。
(10)廃電池のリサイクル効率および材料回収率の検証方法
一次リサイクル業者はリサイクルプロセスの各ステップを文書化し、廃電池の処理が行われる加盟国の管轄当局に報告する義務があります。この際、文書は国際的に利用可能な電子フォーマットで提出され、情報の完全性や正確性を含む計算が適切であるか検証されます。また、廃電池が他国で収集されている場合、必要なデータはその国の管轄当局に転送されます。
管轄当局が検証のために使用した情報やデータは機密扱いとされます。検証においては、リサイクルチェーンの関係者から証拠を収集する、または施設への訪問を含む監査が行われることもあります。また、リサイクル業者は自己監査を外部企業に委託することも可能で、その結果は管轄当局に報告されます。
検証は暦年(最初の年次は2026年)で行われ、特定の状況に応じて追加検証も実施される可能性があります。最終的に、検証済みの書類は所轄当局の最低限の確認が完了した後に、廃電池が収集された国の管轄当局に転送されます。
4.まとめ
電池規則では、多くの要求事項の詳細について、後日に採択される委任法や実施法で補足されることとされています。今回、公表された廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出・検証方法に関する規則案は、スケジュールの上では、2024年の第四四半期の採択を目指しています。予定通りに進めば、電池規則の第VIII章(廃電池の管理)についても予定通りの期日より規制が開始されることになります。
なお、電池規則を補足する委任法や実施法については、電気自動車用電池のカーボンフットプリントの算出・検証方法に関する規則案 4)ならびに電池のカーボンフットプリント宣言のフォーマットを確立する規則案 5)が、本年4月30日に公表されています。今後、適用開始が迫る要求事項が多々控えていることから、今後も多くの規則案の公表が予定されているため、注視が必要です。
(柳田 覚)
1)廃電池のリサイクル効率および材料回収率の算出・検証方法に関する規則案
2)規則案の意見募集
3)電池規則 (EU) 2023/1542
4)電気自動車用電池のカーボンフットプリントの算出・検証方法に関する規則案
5) 電池のカーボンフットプリント宣言のフォーマットを確立する規則案
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