2025年01月10日更新
欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、各加盟国における執行の調和を図り、産業界における特定の義務に関するコンプライアンスレベルを確認することを目的に、「REACH規則執行プロジェクト(REACH-EN-FORCE:REF)」が行われています。これは毎年1つのテーマに対して、多くの加盟国が参加して1年間大規模な市場調査等を実施するものであり、翌年末にその結果を取りまとめた報告書が公表されます。また、REFよりも小規模なパイロットプロジェクトが年間1~2テーマ実施されています。
今回は、フォーラムによる市場調査の動向として、2024年の活動を振り返り、最近公表された市場調査結果や今後の調査予定のテーマについて整理します。
1.2024年に調査結果が公表されたプロジェクト
2024年にはパイロットプロジェクトが1件とREF-11の調査結果が公表されました。
<パイロットプロジェクト:化粧品に焦点をあてたペルフルオロカルボン酸(perfluorocarboxylic acid(PFCA))類と関連物質の規制強化>
「化粧品を対象としたPFCA類の含有制限」をテーマにしたパイロットプロジェクトの報告書が2024年10月に公表1)されました。このパイロットプロジェクトは、2023年11月~2024年4月にかけて、13加盟国によって345社の化粧品や洗剤など4,686製品の調査が実施され、主に次の法規制による含有制限について、調査が行われました。
・POPs規則:ペルフルオロオクタン酸(PFOA)類
・REACH規則:C9-C14の長鎖PFCA類、環状シロキサン類(オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5))
調査は主として成分表を確認することで実施され、調査の結果、全体の6.1%の製品で規制値以上の含有が確認され、特に、PFOA類の一種である「Perfluorononyl dimethicone(CAS番号259725-95-6)」およびD5が多く検出されました。
この結果を受けて、執行情報交換フォーラムは化粧品業界に対して、化粧品が順守すべき規制は化粧品規則のみではなく、REACH規則やPOPs規則についても意識するよう勧告しています。
<REF-11:SDSおよびREACH規則附属書IIの新たな要件への適合性確認>
「SDS」をテーマとして実施されたREF-11の報告書が2024年12月に公表2)されました。REF-11では、2023年の1年間をかけて、28加盟国によって2,500超の物質および混合物のSDSを対象に、主に次の観点で調査が行われました。
・2023年1月から全面適用された「REACH規則附属書IIの改正((EU)2020/878)」による新たな記載項目等への対応状況
・SDS記載内容(分類やリスク管理措置等)の一貫性や妥当性、正確性
ここで言及した「REACH規則附属書IIの改正((EU)2020/878)」3)は2020年に官報公示され、GHS第7版への対応、ナノマテリアルや内分泌かく乱特性、及びCLP規則附属書VIIIによって導入された「固有成分識別子(UFI)」等の新たな記載要件を求めており、2023年1月1日から本改正に準拠したSDSが求められていました。
調査の結果、全体の95%でSDSは積極的に提供されており、提供されたSDSの87%が(EU)2020/878に対応すべく更新されていたことが確認されました。しかしながら、(EU)2020/878による新たな記載要件や認可決定に関する情報の未記載、危険有害性の特定や成分情報、及びばく露管理に関する誤った記載といった記載内容の不備が全体の35%で確認されました。
この調査結果を受けて執行情報交換フォーラムは、SDSによるサプライチェーンの情報伝達は概ね機能しており、過去に実施したSDSの調査プロジェクト(REF-2)4)の結果(違反率52%)に比べると、違反率は低下し改善が図られているものの、より確実な労働者保護の実現には、情報の質のさらなる向上が必要であると述べています。
2.実施中のプロジェクト
現在、調査や報告書のとりまとめが行われている調査プロジェクトとしては、「REF-12:輸入製品(物質・混合物・成形品)の適合性」が挙げられます5)。
EU域外からの輸入製品については、2019年に実施されたパイロットプロジェクトで高い違反率が示されていました。そのため、2024年の1年間をかけて、改めて税関当局と連携して物質・混合物に対するREACH規則の登録や認可義務、混合物および成形品の制限義務等について調査が行われており、報告書は2025年末に公表される予定です。
3.今後実施が予定されているプロジェクト
今後実施することが予定されているプロジェクトは次の通りです。
・パイロットプロジェクト:CLP規則に基づく中毒センター届出(PCN)6)
・パイロットプロジェクト:唯一の代理人(OR)7)
・REF-13:インターネット販売される化学品の執行状況8)
・REF-14:ニコチン製品や芳香剤等の有害性を有する混合物の分類・表示7)
4.最後に
今回取り上げたプロジェクトのテーマを見てみると、SDSや輸入製品、インターネット販売製品、唯一の代理人等は、過去のプロジェクト等によって高い違反率が確認されていたテーマであり、これらのテーマについては、一定の期間経過後の改善状況を確認するために、改めて実施するものと考えます。また、REACH規則やCLP規則、POPs規則等の改正による新たな義務や制限物質への対応状況を確認するために実施するものもあります。
これらのプロジェクトに取り上げられるテーマは、化学物質に関する様々な義務や対応が求められる製品の中でも、当局が関心を持っている内容であると言えます。プロジェクトの実施有無が日本企業に直接的に影響を及ぼすわけではないですが、改めて自社の取組みを確認・見直す契機とする等、自社の取組みの強化にこれらの情報を活かすことも可能であると考えます。
(井上 晋一)
1) ECHA 化粧品を対象としたPFCA類の含有制限に関するパイロットプロジェクト報告書
2) ECHA SDSに関するREF-11報告書
3) EC REACH規則附属書IIの改正((EU)2020/878)
4) ECHA 川下ユーザーの義務に関するREF-2報告書
5) ECHA ECHA Weekly(1月10日付)
6) ECHA ニュースリリース(3月25日付)
7) ECHA ニュースリリース(6月17日付)
8) ECHA ニュースリリース(2023年6月20日付)